「(ああ、『咲姉』!.......どんな『咲姉』でもいい!『咲姉』が出てくれさえすれば….)ううーっ!」
ビエール・トンミー氏は、唸った。
「アータ、どうしたの?」
妻だ。『大師線』の電車の中であった。電車は、まだ京急川崎を出ておらず、ホームに停まったままであった。
ビエール・トンミー氏とマダム・トンミーは、席に座り、電車の出発を待っていた。
「あ…?….ああ、ちょっと喉が詰まって….」
「あら、風邪かしら?」
「(いや、風邪ではない。腫れ物だ。アソコが腫れている)」
『カメレオン』のアクセサリーを付けた鞄を膝の上においており、それで隠れているから、マダム・トンミーは、夫の腫れに気付かない。
「(『鈴木町』に着くまでには、腫れよ、引け!...出ないと、歩き難い)」
そうだ。そうなのだ。ビエール・トンミー氏とマダム・トンミーは、『鈴木町』に行こうとしているのだ。
それは……..
「へっ!」
思わず声を出してしまった。しかし、ちょうどその時、上の階のホームに横須賀方面行の電車が入ってきたようで、その音に、ビエール・トンミー氏の驚きの声は消された。
「(あ!......あ、あれは…….)」
(続く)
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