「家の中だけだったらまだしも、外にもパジャマで出掛けるんだもの」
『内田有紀』に酷似した女性は、夫への不満を口にした。いや、それは、多分、リアルな声として発せられたのではなかったであろう。
しかし、ビエール・トンミー氏には、その『声』が聞こえた。
「(えええ!『オータニ・リョーヘイ』も!)」
そうだ、『オータニ・リョーヘイ』も、であるのだ。
「ご主人様は、その点、今日お召しのものも素敵で、とっても紳士ですわ」
「(良かった…….いつもは……)」
と心の中で云い掛けて、ビエール・トンミー氏は、言葉を止めた。
『内田有紀』に酷似した女性の『声』がリアルなものでないのなら、自分の心の声も彼女に聞こえるかもしれない。
自分も、普段は、パジャマだ。寝る時は勿論、昼間の家の中でも、そして、外出する時にも、着ているのは、パジャマなのだ。
散歩も、スーパー・百貨店への買い物も、銀行にだってパジャマで行くのだ。
四六時中パジャマでいるので、臭い。
「それに、ご主人って、『BURNING BARBERSHOP』を身に纏っていらっしゃるし」
この日は、『オトナ社会科見学』として、味の素の工場見学であったので、それも、『味の素うま味体験館』で調理体験もあるから、とビエール・トンミー氏は、妻の指示で妻好みの服を着て出掛けてきた。
そして、体に染み付いたパジャマ臭を消すべく、『BURNING BARBERSHOP』を付けたのだ。
「ああ、『BURNING BARBERSHOP』って、アタシ…..ああん!」
「(んぐっ!んぐっ!)」
(続く)
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