ビエール・トンミー氏は、『ユキ』と呼ばれた少女にも、他の誰にも悟られぬよう、心中で独り呟いた。
「(ボクが、『銀行』と『信用組合』の違いを知ったのは、商学部で、ではない)」
ビエール・トンミー氏は、『己を見る』男であった。自らを欺くことのできない男であったのだ。
「(友人のエヴァちゃん(エヴァンジェリスト氏)に教えてもらったのだ。エヴァちゃんは、フランス文學修士なのに、何故か、金融機関事情に詳しい。IT知識も豊富な男だ)」
ビエール・トンミー氏は、フランス語については、『il(彼)』と『elle(彼女)』しか知らないのに、『フランス語経済学』では『優』の成績を取ったのも、自分の力ではなく、エヴァンジェリスト氏のおかげであったことを思い出し、今更ながら、恥じた。
エヴァンジェリスト氏に、『フランス語経済学』の試験範囲部分を翻訳してもらい、それを丸暗記し、『イメージとして記憶したフランス語の文章が出てきたら、丸暗記した和訳を書く』ことによって、『優』を取ったのだ。
「ああ、そのことなら知ってるよ。『プロの旅人』で読んだことあるもん」
「(ええーっ!)」
『ユキ』と呼ばれた少女の『声』に、ビエール・トンミー氏は、
驚かざるを得なかった。
「(き、き、き、聞こえていたのか!)」
「オジサン、素敵だよお」
『ユキ』と呼ばれた少女の『声』は、甘かった。
(続く)
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