(住込み浪人[その132]の続き)
「(ああ、どうしてボクは、知っているのだろう?)」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ヒロニが抱いたのと同じ疑問を『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自らに対して投げかけた。
「(広島皆実高校では、フランス語の科目はなかった。多分、今でもない)」
観客席に眼を向ける。
「(な、そうだろう?皆実高校は、公立で特殊な科目はなかった。まあ、看護科はあったし、ボクたちの卒業後に体育科もできて、世界陸上の400mハードルで銅メダルをとった後輩もいるらしいが」
そこにいる友人は、高校の同級生であった。
「(いや、体育科ができたのは、卒業してかなり後のような気がするが…..)」
「(ヒッグス・シングレット)」
友人エヴァンジェリスト青年の眼が、発した言葉を捉えかねた。
「(え?ヒッグ….なんだ、それ?プロレスラーか?プロレスの技か?)」
友人は、何かあると、話題をプロレスに結びつけるのだ。
「(フランス語経済学さ。君は、フランス語経済学で学んだのさ)」
「(ああ、フランス語経済学かあ。そうかあ、あれで……いや、知らないぞ、フランス語経済学なんて)」
混乱する『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を、『サトミツ』は凝視めていた。
「(あなたの美貌には、『知』も伴っていたのね。んぐっ!)」
『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、自らの『んぐっ!』を恥じる必要がないことに安堵した。
「おめえ、すげえけど、負けは負けだな。この問題、早押しだったもんなあ」
『テイトー王』の司会者の一人、ヒロニの言葉に、『サトミツ』は自分を取り戻した。
「(そうだわ。勝ったんだわ、私たち。『テイトー』チームの勝ちだわ)」
だが、もう一人の司会者、ナンカイノー・アメカイノーが、妙なことを云い出したのであった。
(続く)