2019年6月30日日曜日

住込み浪人[その133]







「(ああ、どうしてボクは、知っているのだろう?)」

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ヒロニが抱いたのと同じ疑問を『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、自らに対して投げかけた。

「(広島皆実高校では、フランス語の科目はなかった。多分、今でもない)」

観客席に眼を向ける。

「(な、そうだろう?皆実高校は、公立で特殊な科目はなかった。まあ、看護科はあったし、ボクたちの卒業後に体育科もできて、世界陸上の400mハードルで銅メダルをとった後輩もいるらしいが」

そこにいる友人は、高校の同級生であった。

「(いや、体育科ができたのは、卒業してかなり後のような気がするが…..)」



「(ヒッグス・シングレット)」

友人エヴァンジェリスト青年の眼が、発した言葉を捉えかねた。

「(え?ヒッグ….なんだ、それ?プロレスラーか?プロレスの技か?)」

友人は、何かあると、話題をプロレスに結びつけるのだ。

「(フランス語経済学さ。君は、フランス語経済学で学んだのさ)」
「(ああ、フランス語経済学かあ。そうかあ、あれで……いや、知らないぞ、フランス語経済学なんて)」

混乱する『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を、『サトミツ』は凝視めていた。

「(あなたの美貌には、『知』も伴っていたのね。んぐっ!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、自らの『んぐっ!』を恥じる必要がないことに安堵した。

「おめえ、すげえけど、負けは負けだな。この問題、早押しだったもんなあ」

『テイトー王』の司会者の一人、ヒロニの言葉に、『サトミツ』は自分を取り戻した。

「(そうだわ。勝ったんだわ、私たち。『テイトー』チームの勝ちだわ)」

だが、もう一人の司会者、ナンカイノー・アメカイノーが、妙なことを云い出したのであった。


(続く)


2019年6月29日土曜日

住込み浪人[その132]







Société Nationale des Chemins de fer Français」

回答を書いた『サトミツ』のボードが、大スクリーンに映し出された。EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCである。ファイナルステージの第3問、今回の最終問題である『SNCF』を『フランス国有鉄道』と見事に答えた『サトミツ』に対して、司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーは、

「では、『サトミツ』、『SNCF』の正式名称をボードに書いて下さい!」

と求めたのであった。

「(ふふ。これで『テイトー』チームの勝ちね)」

と、『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』が、それまでの金剛力士のような形相を緩めた時であった。


「おやあ?ビエール・トンミー君……..」

ナンカイノー・アメカイノーが、手許の確認用モニターを見ながら、妙なことを云い出した。

「(え?.....何?)」
「ビエール・トンミー君、君も分っていたんですね?」
「(はあ?)」
「ちょっと、見てみましょう」

ナンカイノー・アメカイノーは、大スクリーンに『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の回答ボードを映し出した。

Société Nationale des Chemins de fer Français」

そこには、先程、『サトミツ』が書いたものと同じ文字が書かれていた。

「(え!分ってたの!)」

『サトミツ』は、眼も口も大きく開いたままとなった。

「ほー、お前、すげえじゃん!」

もう一人の司会であるヒロニも感嘆した。

「お前、浪人だろう?どうして、こんなの知ってんの?あ、高校でフランス語習ってたのか?」

というヒロニの質問、というか疑問に頷く者がいた。


(続く)




2019年6月28日金曜日

住込み浪人[その131]







「『SNCF』」

クイズ番組『テイトー王』を収録するEBSテレビのスタジオCの大スクリーンに、4文字のアルファベットが映し出された。ファイナルステージの第3問、今回の最終問題である。

「(ああ、『エスエヌセーエフ』ね。ふふ。簡単だわ)」
「(ああ、『エスエヌセーエフ』か。なーんだ)」

『サトミツ』と『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が同時に、同じ反応を示した。

しかし……..

「(え?どうして、ボクは……)」

と、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の脳裏には、疑問も走った。その一瞬の疑問が、早押しボタンを押す速さに違いを生じさせた。

「ピンポーン!」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』が、回答権を得た。

「おお、さすがですねえ、『サトミツ』。では、回答をお願いします!」

司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーは、『サトミツ』を持ち上げる。

「フランス国有鉄道!」

金剛力士のような形相で、『サトミツ』は回答を発した。


「正解でーす!」

と、ナンカイノー・アメカイノーが、右手を高く上げた時、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は思った。

「(そうだ、フランス国鉄だ。しかし、どうしてボクは知っているのだろう?)」

上げた右手を下ろしたナンカイノー・アメカイノーは、言葉を続けた。

「では、『サトミツ』、『SNCF』の正式名称をボードに書いて下さい!」

『サトミツ』は直ぐに、ボードにマジックを走らせる。そして、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年も、ボードにマジックを走らせる。無意識な行動であった。


(続く)



2019年6月27日木曜日

住込み浪人[その130]







「さあ、これからスクリーンに、あるヨーロッパの企業の略称が出ます。その企業は何か、答えよ!読み方も、正式名称も合せて答えよ!」

EBSテレビノスタジオCで収録が進むクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、ファイナル・ステージの第3問、今回の最終問題を告げる。

「(え?ヨーロッパの企業?そんなもんは知らないなあ。まあ、いいか。どうせ回答しないんだ。あたかも、正解は知っているけど、でも答えないんだぞ、というそぶりを見せるだけなんだし)」

と、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、問題がスクリーンに映し出される前から、背筋を伸ばして見せた。

「(ああ、そうだ。さすがだ。それでこそ、ビエールだ。知性を見せない、それが、男の、いや、人間のダンディズムだ)」

観客席のエヴァンジェリスト青年の視線が語る。



「(負けないわー!最後に500ポイントなんて、これまで無能に見せて、最後の最後で『住込み浪人』に正解させて、芸能人チームの大逆転、それがプロデューサーの狙いね!負けないわー!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、これまでにない程にムキになっていた。

「(エヴァよ。これだな。あんな風になるな、と君は云いたいんだな)」

冷静に『サトミツ』を凝視める『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の理性は、友人の意図を捉えたが、

「(んぐっ!んぐっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間には、別の人格が存在していたのであった。

「(ああ、『サトミツ』……)」


(続く)



2019年6月26日水曜日

住込み浪人[その129]







「この最終問題は、今回だけの特別ルールで、早押し正解者に500ポイント差し上げます!」

EBSテレビスタジオCで収録中ののクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、衝撃的なルールを発表した。

「ええーっ!」

『テイトー王』チームのメンバーが一斉に不満の声を上げた。最後の問題だけで、それまでの合計ポイント以上の500ポイントをもらえるのであれば、それだけで勝ちになる。

「(しかも、早押しだなんて、ただ正解を答えればいい訳じゃないじゃないの!んもー!)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、これまでにない程に口を尖らせた。

「(んぐっ!んぐっ!)」

『サトミツ』のその尖った口に合わせるかのように、無意識の内に、自分の口をタコのように尖らせ、ついでに、目を瞑った『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間には、これまでにない程に『異変』が生じていた。



「(んぐっ!んぐっ!)」

『サトミツ』のその尖った口に合わせるかのように自分の口をタコのように尖らせた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年のその口に合わせるかのように、オバチャンも自分の口をタコのように尖らせ、ついでに、目を瞑った。観客席にいるOK牧場大学の学食のカレー担当のオバチャン『サキ』の股間にも、これまでにない程に『異変』が生じていた。

「おい、おい!このスタジオ、なんだか猛烈に臭くないか?」

もう一人の司会者ヒロニが、『異変』に、なんらかの『異臭』がスタジオ内で生じていることに、気付いたようであった。

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に起因する『サトミツ』からの『異臭』、逆に、『サトミツ』に起因する『住込み浪人』ビエール・トンミー青年からの『異臭』、そして、また『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に起因するオバチャンからの『異臭』が、スタジオC内に渦巻いていたのだ。

「では、最終問題でーす!」

司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーは、構わず、番組を進行させる。


(続く)




2019年6月25日火曜日

住込み浪人[その128]







「では、ファイナル・ステージ第3問、さあ、最終問題です!」

EBSテレビスタジオCで収録中ののクイズ番組『テイトー王』である。司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、高らかに宣言した。

「だけどさあ、もう勝負あったよな」

もう一人の司会者ヒロニが、冷静な言葉を吐いた。勝負を、番組を盛り上げないといけない立場だが、本音を云うのが、ヒロニの持ち味だ。

「本人を前に云うのもなんだがさあ、『住込み浪人』君って、全然、大したことないじゃん」

ファイナル・ステージに芸能人チームのスペシャル・サポーターとして登場したものの、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、出題された問題2問とも、正解できなかったのだ。

「(そうだわ。こんな男に、アタシったら、『んぐっ!』しちゃうなんて)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、自己嫌悪に陥っていた。

「(確かに、美貌はこれまで見たことのない程だけど。でもイヤ!知の伴わない美は、本当の美ではないわ)」

しかし、そこにまた『サトミツ』の股間に『異変』を生じさせた異臭が漂ってきた。

「(んぐっ!)」

『サトミツ』に起因する『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間の『異変』が発した異臭が、ブーメランのように『サトミツ』にもどってきたのだ。




(続く)


2019年6月24日月曜日

住込み浪人[その127]







「あれあれ?どうしたのかなあ?『烏滸がましい』と書けたのは、由来も分からず、ただ覚えたからなんですか?『サトミツ』らしくありませんねえ」

司会の一人のナンカイノー・アメカイノーは、『サトミツ』を追い込む。EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』収録中のスタジオCで、何かに囚われ、質問も耳に入っていないような様子の『サトミツ』を追い詰める。

「どうして『烏滸がましい』と書くのか、判らないのかあ!?ただの受験勉強バカなのかなあ?!」

ナンカイノー・アメカイノーの挑発に、『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、ようやく自分を取り戻した。

「んもー!判りますう!」

『サトミツ』は、丸く開けていた口を閉ざし、またもや、それを尖らせた。

「『烏滸がましい』の『烏滸』って、馬鹿げてる、とか、愚かってことで、『がましい』って、『のように見える』って感じの接尾辞です」
「では、どうして『烏滸』という漢字なんですか?」
「昔、中国で、黄河や揚子江に集まって騒ぐ人たちのことを、カラスの漢字(烏)と水際を表す漢字(滸)で表現したんです!」



『サトミツ』は、いつもの『サトミツ』に戻っていた。

「(んぐっ!)」

『サトミツ』とナンカイノー・アメカイノーのやり取りを見ていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は…..いや、口を尖らせながら、ナンカイノー・アメカイノーに向かっていく『サトミツ』を見ていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、股間を抑えた。

「(ああ、これが『サトミツ』だあ…..んぐっ!)」

(続く)



2019年6月23日日曜日

住込み浪人[その126]







「(エノキ?UWGP?ホーガンナゲ?…何、それ?)」

観客席にいるOK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンから飛んだ声に、『サトミツ』の混乱は増した。

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCである。ファイナル・ステージの第2問も、第1問に続けて、第2問も、敵である『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、正解を知っているようで、回答をしなかった。

「(『オコガマシイ』は、『烏滸がましい』と書くことは、分っていたんじゃないの?だって、回答ボードに、『烏』だけは書いてたもの。なのに、どうして途中で書くのを止めたの?そこのオバチャンの云う『エノキ』とか『UWGP』とか『ホーガンナゲ』っていうものと関係あるの?)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』も、プロレスのことは詳しくなかったのだ。

「(ふふ。『サトミツ』もその程度か、ふふ。『官立』ってそんなものだろう)」

観客席の闇に身を潜めるエヴァンジェリスト青年には、『サトミツ』の魅力も通じないのだ。

「(エノキさんは、一流のマーケティング・プランナーなのだ)」

エヴァンジェリスト青年は、自分の専攻はフランス文学であったが、何故か、マーケティングを語る。

「(マーケティングって、市場調査をしていくようなことをいうものではない。詰まるところ、『創造』なのだ)」

自分自身に云いきかせているようでもあった。

「(一大イベントであるUWGPの決勝で、主催者であり、団体のエースであり、広く国民のスターであるアントミオ・エノキが、負ける訳がない、と誰もが思う。その固定観念を打ち砕く。それも、舌出し失神という壮絶な負け方をして……それが、エノキさんの『創造』であったのだ)」



(続く)




2019年6月22日土曜日

住込み浪人[その125]







「(あのオバチャン、プロレス通だからなあ)」

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCで、観客席の闇に身を潜めながら、エヴァンジェリスト青年は、OK牧場大学の学生食堂での出来事を思い出した。

「(あの時、オバチャンは、レフリーをしてくれた)」

エヴァンジェリスト青年は、OK牧場大学の学生食堂で、自分をヘッドロックに捉えた友人『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を、ヘッドロックされたまま抱え上げ、その尾骶骨を、アトミック・ドロップで自らの膝に叩きつけると、叫んだのであった。

「サキさん!カウント、カウントです!」

すると、声を掛けられたサキさんこと、OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンが、

「はいよ!」

と、返事をし、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とエヴァンジェリスト青年を取り囲む学生たちの輪から飛び出してきた。

「うううーっ!」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、尾骶骨を友人エヴァンジェリスト青年の膝にしたたか打ち付けられた後、反動で飛び上がったものの、直ぐに、体は、食堂の床に投げ出されていた。

「フライング・ソーセージー!」

と叫んだエヴァンジェリスト青年が、ジャンプすると、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の体の上に自らの体を重ねた。

「ワン、ツー!」

カレー担当のオバチャンが、体を伏せ、頬を床につけるようにして、床を平手で叩きながら、カウントを始めたのであった。

「(オバチャンがプロレス好きなことは知っていたんだ。学食で時々、プロレス談義をしたことがある。だから、あの時、レフェリングを頼んだのだ。しかし、まさかUWGPの第1回大会の決勝の内情まで知っていたとは…..)」



エヴァンジェリスト青年は、オバチャンのプロレスへの造詣の深さに驚くと共に、眼の前の状況をエノキ・プロレスの深みに擬えるセンスに脱帽した。

「(そうだ。オバチャンが見抜いた通り、ビエールは今、わざと正解しないようにしているのだ。わざと負けているのだ。エノキさんのように!)」

(続く)


2019年6月21日金曜日

住込み浪人[その124]







「(エノキ?)」

それまで観客席の闇に身を潜めていたエヴァンジェリスト青年が、声のする方に視線を向けた。EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCである。

「エノキみたいに、わざと負けんのかい、スミローちゃーん?!」

OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャン『サキ』が、芸能人チームの席に座る『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に向け、言葉を続けた。

「UWGPの決勝で、エノキが、ホーガンナゲに負けてみせたようなことをすんのかい?」
「(そういうことか…..)」

オバチャンの云っていることを理解できた者が、スタジオ内で他にいたかどうかは分からないが、エヴァンジェリスト青年は、判った。

オバチャンは、誰もが知るプロレスラーのアントミオ・エノキが、自身で企画したプロレス・イベントUWGPの第1回大会の決勝で、アキク・ホーガンナゲに負けた時のことを云っているのだと。



「(そうだ。あの時、エノキは多分、わざと負けたのだ。誰もが、エノキが勝つと思っていた。ボクもそうだった。しかし、エノキは負けた)」

アントミオ・エノキが、リング下で舌を出し、失神し、救急車で病院に運ばれたことを一般紙が社会面で取り上げたことを思い出した。

「(リング上で、アキク・ホーガンナゲは狼狽えていた。自分に仕事を与えてくれ、UWGPの決勝に出るまでに育ててくれた地元国の大スターであるアントミオ・エノキに勝てる訳もなく、勝ってはいけないことは、暗黙の了解であったのだ。しかし、そのエノキに勝ってしまったのだ…..)」

オバチャンは、今の状況を、あの時のアントミオ・エノキに例えているのだ。

(続く)



2019年6月20日木曜日

住込み浪人[その123]







「はーい!時間です」

EBSテレビのスタジオCで収録中のクイズ番組『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、右手を開いて前に突き出し、回答ストップを命じた。

「では、皆さんの回答を一斉に開きまーす!」

というナンカイノー・アメカイノーの声と共に、回答者全員のボードがスクリーンに映し出された。

「正解は、この方々でーす!」

と、ナンカイノー・アメカイノーが明かした正解者は、スクリーンに映し出されたボードが、点滅した。

『テイトー』チーム3名は、全員正解、芸能人チーム3名には、誰も正解者はいなかった。

「正解は、『テイトー』チームの皆さんの回答の通り、『烏滸がましい』と書きます」

ナンカイノー・アメカイノーは、更に続ける。

「では、どうして『烏滸がましい』と書くのか、お判りでしょうか?『佐藤ミツ』さん、説明して頂けますか?」

カメラは、『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』を捉えた。

「え?」

『サトミツ』は、ナンカイノー・アメカイノーの質問を聞いていなかった。美人も台無しな感じで口を開け、奥歯の銀歯が見えていた。

「(どうして?どうしてなの?)」

『サトミツ』は、敵を凝視めた。回答席に座ったまま、背筋を伸ばし、またもや自信たっぷりな様子を今も見せている『住込み浪人』ビエール・トンミー青年への疑問が、頭の中に渦巻いていた。

「(漢字を全部思い出せなかったの?いや、判ってたのね。だって、自信たっぷりだもの……じゃあ、どうして?どうしてなの?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の回答ボードには、マジックで『烏』と書き、それをバッテンで消した跡が見えたのだ。

「スミローちゃーん!どうしたのー!?」

オバチャンである。OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャン『サキ』は、我慢ならなかった。

「スミローちゃーん!アンタ、『エノキ』してんの!?」



(続く)



2019年6月19日水曜日

住込み浪人[その122]







「(いや、分ってるよ)」

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』収録中、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の視線は、観客席の闇に潜む友人に向いていた。

「(ああ、あれは、さっきまでのボクの姿だ)」

視線を今度は、『サトミツ』に向けた。

「(んぐっ!)」

と、必死な『サトミツ』の姿に『反応』する股間とはアンチノミーな理性は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年をして、友人エヴァンジェリスト青年の云わんとすることを理解させていたのだ。

「(正解は、判っている)」
「(…………..)」
「(ああ、だが、答えない)」
「(…………..)」
「(そうだ。『サトミツ』はあれでいい。『サトミツ』なのだから)」
「(…………..)」
「(しかし、ボクは……..)」
「(…………..)」
「(だから、ボクは今、答えない。このボードに『烏滸がましい』と書かない)」

回答席に座ったまま、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、背筋を伸ばした。

「(何?)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、またもや敵の姿勢が自信たっぷりなものに見えたのだ。

「(書けたのね。『烏滸がましい』と書けたのね。やはり侮れないわ)」

「ブーッ!」


EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCにブザー音が響いた。


(続く)