(住込み浪人[その124]の続き)
「(あのオバチャン、プロレス通だからなあ)」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCで、観客席の闇に身を潜めながら、エヴァンジェリスト青年は、OK牧場大学の学生食堂での出来事を思い出した。
「(あの時、オバチャンは、レフリーをしてくれた)」
エヴァンジェリスト青年は、OK牧場大学の学生食堂で、自分をヘッドロックに捉えた友人『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を、ヘッドロックされたまま抱え上げ、その尾骶骨を、アトミック・ドロップで自らの膝に叩きつけると、叫んだのであった。
「サキさん!カウント、カウントです!」
すると、声を掛けられたサキさんこと、OK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンが、
「はいよ!」
と、返事をし、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とエヴァンジェリスト青年を取り囲む学生たちの輪から飛び出してきた。
「うううーっ!」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、尾骶骨を友人エヴァンジェリスト青年の膝にしたたか打ち付けられた後、反動で飛び上がったものの、直ぐに、体は、食堂の床に投げ出されていた。
「フライング・ソーセージー!」
と叫んだエヴァンジェリスト青年が、ジャンプすると、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の体の上に自らの体を重ねた。
「ワン、ツー!」
カレー担当のオバチャンが、体を伏せ、頬を床につけるようにして、床を平手で叩きながら、カウントを始めたのであった。
「(オバチャンがプロレス好きなことは知っていたんだ。学食で時々、プロレス談義をしたことがある。だから、あの時、レフェリングを頼んだのだ。しかし、まさかUWGPの第1回大会の決勝の内情まで知っていたとは…..)」
エヴァンジェリスト青年は、オバチャンのプロレスへの造詣の深さに驚くと共に、眼の前の状況をエノキ・プロレスの深みに擬えるセンスに脱帽した。
「(そうだ。オバチャンが見抜いた通り、ビエールは今、わざと正解しないようにしているのだ。わざと負けているのだ。エノキさんのように!)」
(続く)
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