2019年6月1日土曜日

住込み浪人[その104]







「(んぐっ!)」

その『んぐっ!』は、EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCで発せられたものであったが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年のものでも、アシスタント・ディレクターの松坂慶江のものでもなかった。

「(え?え?え?!.......これなの!?)」

聡明なる『サトミツ』は、自分が思わず『んぐっ!』を発したことにより、『んぐっ!』が何であるかを理解した。

「(そうよ、それよ、『んぐっ!』は)」

スタジオの暗がりから、『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』を見ていたアシスタント・ディレクターの松坂慶江は、『サトミツ』の変化を見逃さなかった。

「(でも、どうして?どうしてなの?)」

『サトミツ』には、まだ解明できないものがあった。


「(ふん、『サトミツ』でも分らないの)」

松坂慶江は、優越感に浸った。自分の番組の人気出演者ではあるが、男性からも女性からもちやほやされる『サトミツ』のことを好ましくは思っていなかったのだ。

「(分ってるわ、あの臭いのせいだってことは!)」
「(そうなの?)」
「(ああ、臭い!んぐっ!.....なんなのこの臭い?)」
「(ああ、まだ知らないのね。ふふ)」

アシスタント・ディレクターは、マスクの下で、不敵な笑みを浮かべた。


(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿