(住込み浪人[その103]の続き)
「(んぐっ!)」
その『んぐっ!』は、EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCで発せられたものであったが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年のものでも、アシスタント・ディレクターの松坂慶江のものでもなかった。
「(え?え?え?!.......これなの!?)」
聡明なる『サトミツ』は、自分が思わず『んぐっ!』を発したことにより、『んぐっ!』が何であるかを理解した。
「(そうよ、それよ、『んぐっ!』は)」
スタジオの暗がりから、『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』を見ていたアシスタント・ディレクターの松坂慶江は、『サトミツ』の変化を見逃さなかった。
「(でも、どうして?どうしてなの?)」
『サトミツ』には、まだ解明できないものがあった。
「(ふん、『サトミツ』でも分らないの)」
松坂慶江は、優越感に浸った。自分の番組の人気出演者ではあるが、男性からも女性からもちやほやされる『サトミツ』のことを好ましくは思っていなかったのだ。
「(分ってるわ、あの臭いのせいだってことは!)」
「(そうなの?)」
「(ああ、臭い!んぐっ!.....なんなのこの臭い?)」
「(ああ、まだ知らないのね。ふふ)」
アシスタント・ディレクターは、マスクの下で、不敵な笑みを浮かべた。
(続く)
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