2019年6月23日日曜日

住込み浪人[その126]







「(エノキ?UWGP?ホーガンナゲ?…何、それ?)」

観客席にいるOK牧場大学の学生食堂のカレー担当のオバチャンから飛んだ声に、『サトミツ』の混乱は増した。

EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』を収録中のスタジオCである。ファイナル・ステージの第2問も、第1問に続けて、第2問も、敵である『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、正解を知っているようで、回答をしなかった。

「(『オコガマシイ』は、『烏滸がましい』と書くことは、分っていたんじゃないの?だって、回答ボードに、『烏』だけは書いてたもの。なのに、どうして途中で書くのを止めたの?そこのオバチャンの云う『エノキ』とか『UWGP』とか『ホーガンナゲ』っていうものと関係あるの?)」

『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』も、プロレスのことは詳しくなかったのだ。

「(ふふ。『サトミツ』もその程度か、ふふ。『官立』ってそんなものだろう)」

観客席の闇に身を潜めるエヴァンジェリスト青年には、『サトミツ』の魅力も通じないのだ。

「(エノキさんは、一流のマーケティング・プランナーなのだ)」

エヴァンジェリスト青年は、自分の専攻はフランス文学であったが、何故か、マーケティングを語る。

「(マーケティングって、市場調査をしていくようなことをいうものではない。詰まるところ、『創造』なのだ)」

自分自身に云いきかせているようでもあった。

「(一大イベントであるUWGPの決勝で、主催者であり、団体のエースであり、広く国民のスターであるアントミオ・エノキが、負ける訳がない、と誰もが思う。その固定観念を打ち砕く。それも、舌出し失神という壮絶な負け方をして……それが、エノキさんの『創造』であったのだ)」



(続く)




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