(住込み浪人[その119]の続き)
「では、続いて、第2問です!」
EBSテレビのスタジオCで収録の進むクイズ番組『テイトー王』のファイナル・ステージが、まだ続いていた。
「『オコガマシイ』を漢字でどう書く?」
『テイトー王』の司会者の一人、ナンカイノー・アメカイノーが、第2問を読み上げた。
「(ん?)」
スペシャル・サポーターとして芸能人チームの回答者席に座る『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、首をひねった。
「(なんだ?)」
上目遣いに何かを思い出そうとしていた。
「(あ!そうか…….)」
そうだ。あの日、OK牧場大学構内にある浪人生専用の『寮』で起床し、共同台所まで行ったところで、他の『住込み浪人』二人が、同い年のOK牧場大学の1年生に漢字の書き取りの指導を受けているのを見たことを思い出した。
「じゃあさあ、『オコガマシイ』って書けるかなあ?」
OK牧場大学の1年生は、口の端を歪め、『住込み浪人』二人に対して嘲るような言い方をしたのであった。
「(『オコガマシイ』?)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、その時、『オコガマシイ』を漢字でどう書くか、知らなかった。
「あれ、ひょっとしてビエール君かい?」
OK牧場大学の1年生が、台所から、声を掛けて来たので、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、踵を返して、OK牧場大学の『住込み浪人』用の『寮』を出た。
「マズイ!マズイ!.......『オコガマシイ』って、どう書くんだったけ?」
あのOK牧場大学の1年生に馬鹿にされたくなかった。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、二浪目であったから、現役合格のあのOK牧場大学の1年生より一つ歳上だ。だから、
「あの生意気な若造に馬鹿にされるなんて….」
と、『そのまま』、つまり、パジャマを着たまま、OK牧場大学の『住込み浪人』用の『寮』を出た。
「(しかし、今は書ける。『オコガマシイ』を漢字で書けるぞ!)」
そうだ。あの出来事の後、辞書で調べ、覚えたのだ。
「(ふふ)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、北叟笑んだ。
「(どうしてまた、最近、自分の周りであったようなことが問題になっているのだろう?)」
という疑問が頭をよぎったが、『オコガマシイ』で恥をかかなくて済む、という思いの方が強く、回答ボードに、マジックで『烏滸がましい』の『烏』の文字を書き始めた。
「(うっ!)」
マジックを持った右腕を顔に持っていき、両眼を塞いだ。
(続く)
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