(住込み浪人[その107]の続き)
「(え?)」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』収録中のスタジオCで、『サトミツ』は、『おお、よく見ると、結構、ハンサムじゃねえか』という司会のヒロニの言葉で初めて、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の顔をよく見た。
「(んぐっ!)」
『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』は、慌てて両手を股間に当てた。今度は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の発する臭いにではなく、彼の美貌に『反応』してしまった。
「(ふふ。これで、今日の『サトミツ』は最後まで、絶不調ね)」
ただ一人、『サトミツ』の『異変』に気付いていたアシスタント・ディレクターの松坂慶江は、『サトミツ』の新たな『異変』も察知した。しかし…..
「(え?)」
アシスタント・ディレクターは、視線を観客席側に回した。
「(んぐっ!)」
と、別の『異変』が、観客席側で発生したのだ。
「(誰?)」
最初は、OK牧場大学の学生食堂でカレー担当するオバチャンかと思った。しかし、オバチャンの『異変』は、もうしばらく前から続いており、それはもう『異変』と検知できない程のものとなっていた。
財務分析の世界に於いて、同じような粉飾を何期も続けていると、『異常』から『異常』への変化(同じレベルでの変化)は、『異常』と検知されなくなる場合があるのと同じ理屈である。
「(んぐっ!)」
それは、観客席側というよりも、その背後から発せられていた。
「(誰、貴女?)」
黒のワンピースを着た女であったが、黒いサングラスに白いマスクをつけており、怪し気な雰囲気を醸していた。
「(ええ?)」
黒いサングラスをしてはいたものの、その正体不明の女の視線は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年にではなく、司会のナンカイノー・アメカイノーに向いていたのだ。
(続く)
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