(うつり病に導かれ[その31]の続き)
「あ…!」
ドクトル・ヘイゾーは、松坂慶子、いや、松坂慶子に酷似した女性のは背後にいる女性に眼を向けた。
「(外神田さん!)」
松坂慶子に酷似した女性である松坂慶美を両手で支えるようにしていたのは、時々、診察を受けに来る外田有紀であった。
「ウチに遊びにきていた母が、熱を出したんです、先生。熱は37度少ししかありませんけど」
松坂慶美は、外田有紀の母親だったのだ。
「(内田有紀の母親が、松坂慶子か!)」
外田有紀は、上品で清楚な女性で、内田有紀に酷似している女性であったのだ。
「でも、インフルエンザかもしれないと思いまして、でも、昨日はこちら休診だったものですから、『ギャランドゥ・クリニック』に連れて参りましたの」
と、内田有紀が、いやいや外田有紀が凝視めてきた。
「(んぐっ!)」
白衣の下で、両足を窄めた。タイプの女性であったのだ。
「検査をして頂いてインフルエンザは陰性だったんですけれど、母は今日もまだ苦しいと申しまして….」
と、外田有紀が、母親の肩に両手を当てると、
「もう死にそうやわあ、ふうう」
松坂慶子、いやいやいやいやいや、松坂慶美が、関西弁で訴える。
「(大袈裟だなあ。いい歳をして。それに、なんだその関西弁は。なんだか変な関西弁だなあ)」
しかし、外田有紀の母親である。イラつきを表には出さず、左手を松坂慶美の顎に持っていくと、
「お母さん、アーンして下さい」
と云った。
「アーンすればよろしゅおますのね?はーい、アーン」
「(いちいちムカつく関西弁だなあ)」
しかし、次に松坂慶美の瞼を下げ、確認すると、
「では、胸を拝見しましょう」
と、聴診器を耳に当てた。
「あらま。そんな恥ずかしいわあ」
松坂慶美は、体をくねらせた。
(続く)
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