(うつり病に導かれ[その37]の続き)
「アタシ、このまま死んじゃうかもしれへんわ」
開いたドアから、よろけるように出てきた息は、妙な関西弁であった。
「(んん?なんだ?どこかで聞いたような....)」
ビエール・トンミー氏は、閉じていた瞼を徐に開けた。
「(は?ここは….)」
待合室のようなところで、幅広の茶色いベンチ・シートに座っていた。
「お父さん、アタシも、もうそちらに行きまっさかいにい」
妙な関西弁の主は、60歳台と思しきふくよかな女性で、40歳台と見える女性に支えられ、診察室から出てきたのであった。
「んもう、母さんったら、こちらの先生もただの風邪だと仰ったでしょ」
ビエール・トンミー氏は、その母娘が出てきたドアに『第一診察室』と書かれているのを見て、自分が病院に来ていることを思い出した。
「(そうだ。熱が下がらず、咳も止まらず、鼻水もダダ漏れなのだ)」
ギャランドゥ・クリニックで処方された薬を飲んでもまだ良くならず、
「アータ、やっぱりインフルエンザじゃないの」
と妻に云われたし、ドクトル・ギャランドゥも、翌日、熱が下がらなければ、翌日はギャランドゥ・クリニックは休診なので、別の病院に行くよう云われ、ギャランドゥ・クリニックとは反対側の駅前にある評判のいい『ヘイゾー・クリニック』に来たのだ。と、思い出したものの、頭痛と胴回りの痛みに、再び、眼を閉じた。
「(…………『肉感的な』子が、だって…)」
また、広島市の被服廠』であった(正式には『被服支廠』らしいが、当時、地元では『被服廠』と呼んでいた)の横の道路であった。
「『肉感的な』子は、『パルファン』子さんの同級生だったんだ」
『パルファン』子さんを心の『妻』としながらも、友人は同時に、別の少女も好きになっていたのだ。しかも、『妻』の同級生を。
「(ふん、『肉感的な』だって!中学生だったくせに。しかも、同時に2人の子を好きになるなんて!それに、そんな話をどうしてここでするんだ。君は、今、どこを歩いていると思っているんだ!)」
(参照:ハブテン少年[その123])
と、煉瓦造りの古い建物を見ながら、思ったものの、それを云うことはしなかった。
「(君は、ただ一人の友人だったからな、あの頃から…….ん?)」
目を閉じたまま、ビエール・トンミー氏は、首を捻ったその時であった。
(続く)
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