2020年3月21日土曜日

うつり病に導かれ[その51]






「祖父に連れられて参りましたの」

ドクトル・マリコは、子どもの頃、祖父の入り広島に行き、祖父に広島皆実高校辺りに連れて行ってもらったことを語り始めた。診察室はもう、ドクトル・マリコと老患者とだけの空間となっているかのようであった。

「正門までのアプローチが随分、長かったことを覚えてますわ」

ドクトル・マリコの吐いた息が、老患者を顔を包んだ。

「(んぐっ!)」

ビエール・トンミー氏は、両足を窄めた。

「祖父は、グラウンドを指して、『ここはサッカーの公認グラウンドだから、皆実高校には野球部はないんだ』と教えてくれましたわ」


ビエール・トンミー氏は、

「(そうかあ、元は『県女』(広島県立広島高等女学校)だったから野球部がないのかと思っていた)」

と思ったが、

「ええ、そうなんです」

と答えた。

「それから『被服廠』も見に参りましたの」
「え!あの煉瓦の、あの爆風で鉄の扉が…」
「ええ、そうですわ。『被服廠』の西側のドブ川沿いの道を歩きましたの」
「え!え!ええ!」
「あら、どう致しましたの?」
「わ、私、その道を通学していました!」
「あら、牛田から?」
「あ!?OK牧場大学に入ることになる友人が翠町に住んでいたので、一旦、彼の家に寄ってから登校したんです」
「あ!そう云えば…」

ドクトル・マリコは、何かを思い出すように上目遣いになった。

「確か…『被服廠』の横の道を高校生が2人、とても素敵なお兄様が2人…」

と云いかけた時であった。


(続く)




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