(うつり病に導かれ[その41]の続き)
「(どういうことだ?)」
ビエール・トンミー氏は、眼を閉じ、頭を自分の方に乗せている女が、松坂慶子に酷似していることには、もう驚いていなかったが…
「(どういうことだ?)」
内田有紀に酷似した娘の母親が、松坂慶子に酷似していることにももう驚かなかったが…
「(どういうことだ?)」
内田有紀と松坂慶子は勿論、母娘ではないが、月まで放送されたNHKの朝ドラ『まんぷく』では、母娘を演じた内田有紀と松坂慶子、それぞれに酷似した2人の女と遭遇したことにももう驚かなかったが…
「(何が起きているんだ……)」
前日と……前日、ギャランドゥ・クリニックで起きたことと全く同じことが、その日、ヘイゾー・クリニックで起きている。
「は!」
松坂慶子に酷似している女の頭が、肩から外れ、胸からビエール・トンミー氏の腹部に、また倒れ込んできたのだ。
「(んぐっ!)」
股間に手を当てようにも松坂慶子に酷似している女の体が邪魔をしている。
「(違う!違う!)」
ビエール・トンミー氏は、心の中で誰かに必死で抗弁した。
「(ボクは、松坂慶子には興味はないんだ!)」
それは、ビエール・トンミー氏の本心ではあったが、その時、心と体とはまた、分離していた。
「ああ…」
倒れ込んだまま松坂慶子に酷似している女、松坂慶美は、微かに言葉を発した。
「アナタ、久しぶり…」
と、ビエール・トンミー氏の腹部というか、腹部近いところに頬ずりした。
「(んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏は、身体を、身体中を硬直させた。
「まあ、母さん!」
内田有紀に酷似した外田有紀が、受付で支払を済ませ、戻ってきた。
「しっかりして!」
「ええ?....でも、お父さんと久しぶりにい…」
「何を云ってるの。帰るのよ」
と、母親の体を引き起こし、ビエール・トンミー氏から離したが、その時、一瞬だが、視線をビエール・トンミー氏の腹部というか、腹部近いところに落した。
「ま…」
小さく声を上げたが、直ぐに、
「ごめんなさい」
と頬を赤らめた。
「いえ、違うんで…」
と、ビエール・トンミー氏が、何かを否定しようとした時であった。
(続く)
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