(うつり病に導かれ[その30]の続き)
「松坂慶美……マツザカ・ヨシミ」
知らない名前だ。ドクトル・ヘイゾーは、PCのスクリーンセーバーを解除し、午後の最初の患者の電子カルテを開いていた。
「(どこかの芸能人みたいな名前だなあ)」
芸能界にはあまり興味はないが、松坂慶子くらいは知っていた。特段、好きな女優ではなかったが。
「(初診か)」
と、待合室側のドアが開き、
「……ふうう……」
恰幅のいい、若くはないが老女というにはまだ早い60歳台と思しき女が、息を漏らしながら、診察室に入ってきた。
「あ、そこにお掛けください」
入ってきたその患者に方に顔を向け、そう云った瞬間、ドクトル・ヘイゾーは、一瞬、身を引いた。
「(松坂慶子!)」
であるはずはなかったが、松坂慶子に酷似した女性であった。
「母なんです、先生」
松坂慶子、いや、松坂慶子に酷似した女性の背後から声がした。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿