2020年3月1日日曜日

うつり病に導かれ[その31]






「松坂慶美……マツザカ・ヨシミ」

知らない名前だ。ドクトル・ヘイゾーは、PCのスクリーンセーバーを解除し、午後の最初の患者の電子カルテを開いていた。

「(どこかの芸能人みたいな名前だなあ)」

芸能界にはあまり興味はないが、松坂慶子くらいは知っていた。特段、好きな女優ではなかったが。

「(初診か)」

と、待合室側のドアが開き、

「……ふうう……」

恰幅のいい、若くはないが老女というにはまだ早い60歳台と思しき女が、息を漏らしながら、診察室に入ってきた。

「あ、そこにお掛けください」

入ってきたその患者に方に顔を向け、そう云った瞬間、ドクトル・ヘイゾーは、一瞬、身を引いた。

「(松坂慶子!)」

であるはずはなかったが、松坂慶子に酷似した女性であった。

「母なんです、先生」

松坂慶子、いや、松坂慶子に酷似した女性の背後から声がした。




(続く)



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