(うつり病に導かれ[その51]の続き)
「ドクトル!次の患者さんがお待ちですぞ」
看護師ドモンが、苛立ちの声でドクトル・マリコと老患者の間に割って入った。
「あら、失礼、私って!ふふ」
両手を頬に当てたドクトル・マリコは、眼で老患者に微笑みかけた。
「(んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏は、股間に手を当てた。
「(スケベ爺めが!)」
看護師ドモンが両眉を釣り上げて、老患者の股間に視線を当てていた。
「トンミーさん、肺炎ではないようですから、お薬をお出ししておきますね」
女医の声にいつも医師としてものとは違うものが混じっていることに看護師ドモンは、気付く。
「(ドクトル!)」
電子カルテに入力するドクトル・マリコの指も軽やかであった。
「お薬をお飲み頂いても、高熱が続くようでしたら、またお越し下さい」
「はい!」
ビエール・トンミー氏は、病人らしからぬ元気さで答えた。
「でも、トンミーさんは元々、ギャランドゥ・クリニックでしたかしら?」
「(そうだ!お前なんか、もうウチに来なくていい!)」
看護師ドモンは、『へ』の字の口の中で、そう叫んだ。
「いえ、また診て下さい!」
ビエール・トンミー氏は、股間に両手を当てたままだ。
「では、是非また!うふん、広島の話もお聞きしたいわ」
と、ドクトル・マリコが言い終える前に、
「はーい!診察は終了!」
と、看護師ドモンは、老患者の脇を抱え、刑事が犯人を連行するように診察室の出口まで連れて行った。
(続く)
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