(うつり病に導かれ[その45]の続き)
「ふーっ」
ドクトル・マリコは、大きく深呼吸をして再び、レントゲン室に入った。
「(息をしちゃいけないわ)」
レントゲン室にいる老人が放つあの臭いが、鼻腔に蘇ってくる。
「(えっ!)」
老人が振り向いていた。
「(んぐっ!)」
老人は、裸の胸を女医に見せていた。
「(どうして!?ただの爺さんじゃないの!でも……んぐっ!)」
老人の裸に胸には、白髪混じりの胸毛がだらしなく垂れ下がっていたのだ。
「(貧弱じゃないの!)」
確かに衰えてはいたが、ビエール・トンミー氏の胸は、その昔、『琴芝のジェームス・ボンド』と呼ばれていた面影があったのだ。
「(何よ!乳首からも白髪なんて!でも……んぐっ!)」
老人の方も、レントゲン室の入口で立ちすくんだまま睨みつけてきている女医に、
「(え?)」
と怯みながらも、
「(んぐっ!)」
と『反応』してしまい、慌てて着衣を、いや、パジャマを手に取り、女医に背を向けながら、頭からそれを被った。
「うっ!」
ドクトル・マリコは、思わず噎せた。老人が、脱いでいたものを再び着る時に、饐えたような猛烈な臭いが女医を襲ったのだ。
「(んぐっ!)」
女医は、直ぐにレントゲン室を出ると、振り向かず、老人に告げた。
「診察室にお戻り下さい」
(続く)
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