(うつり病に導かれ[その32]の続き)
「お母さんったら、先生を困らせないで」
外田有紀は、片手で、聴診器を当てられることを恥ずかしがる母親の肩をポーンと打った。
「先生、申し訳ありません」
母親の松坂慶美は、仕方なさそうに、ふくよかな体を窄め、片手ずつカーディガンを脱ぎ、ついで、その下に着ていたブラウスもゆっくりと脱いだ。
「(んぐっ!)」
ドクトル・ヘイゾーは、白衣の下で、再び、両足を窄めた。
「(いやいや、違う、違うんだ!)」
と心の中で言い訳しながらも、眼は、松坂慶美の白い肌と、60歳台にはとても見えない豊かな胸から離れなかった。
「これも取らなあきまへんのやろ?」
と背後にいる娘に確認しながら、母親は、あっさりと胸に当てていたものを外した。段々、大胆になってきた。しかし、外したものは、その外し方以上に大胆だった。
「(んぐっ!)」
真っ黒だった。
「もう主人を亡くしてますのやけど」
訊いてもいないこと話す。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿