(うつり病に導かれ[その34]の続き)
「(アタシ、知ってるのよ)」
インフルエンザの検査キットを準備しながら、老看護婦オクマは、ドクトル・ヘイゾーのiPadの画面にあった画像を思い出した。
「(スケベーね。あの白髪混じりのスケベーな髭。『桃怪人』ってドクトルだったんだわ)」
患者の松坂慶美を椅子に座らせ、顔を少し上向きにさせ、減菌綿棒を鼻腔に差し込む。
「(この婆さん、アタシと同じで昔は美人だったのね。今は、随分、太ってるから、あれだけど…)」
減菌綿棒で鼻甲介を擦る。
「いや~ん!」
松坂慶美が、嬌声を上げる。
「(ドクトル、また『反応』したでしょ!)」
オクマは、背後に、医師が両足を窄めるのを感じ取った。
「(『桃怪人』って、熟女好きなのね。いつも、アタシのお尻見ているし)」
綿棒を検査キットの検体希釈液に入れ抽出した検体を、濾過フィルターに入れ、テストデバイスに滴下する。
「(あの男もそうだった!……)」
若い頃、同棲していた男は、『ビニ本』で熟女の画像見ているだけではなかった。60歳近い熟女と浮気した。
「オクマ、ごめん、『火遊び』だったんだ」
と、追いすがってきたが、棄てた。
「(あれから、『火』を見ると、イラつくようになった)」
老看護婦オクマの瞳に、どこかの野球漫画のように炎が映ったように見えた。
「(ドクトルって、あの男と違って大人で、『火遊び」なんてしない人だと思っていたけど、男って、結局『火遊び』が好きなのね。ふん!)」
(続く)
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