(うつり病に導かれ[その55]の続き)
「だってさあ、この人さあ、ユーイチに似てるじゃないかえ」
お婆ちゃん薬剤師『りき』は、ビエール・トンミー氏の手を再び、握り、その手の甲に今度は、赤い唇をつけようとした。
「(んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏は、さっと手を引き、両手で股間を隠した。
「ま!恥ずかしがっちゃってさあ。顔も真っ赤にしちゃってさ」
「いや…」
「じゃあさ、『アズベリン』が出てるからさ、これで咳を止め、痰を取るんだよ、ユーイチ」
「いえ、私は、ユー…」
「『クラリス』も出てるよ。抗生物質だから、変な虫がつかないよ、ユーイチ」
「いえ、だから、私は、ユー…」
「最後はねえ、『カロナール』、だよ。熱と頭痛、カローナールさあ」
と、どこかで聞いたことのあるダジャレを飛ばして、ウインクし、赤い唇を窄め、突き出してきた。
「(んぐっ!アニータ!?)」
ビエール・トンミー氏は、頭の中を、『メディシン・アニータ薬局』のアニータの顔と『タノ9薬局』のお婆ちゃん薬剤師『りき』の顔とが、文字通りグルグル回り、椅子から転げ落ちそうとなった。
その時……
「んん、もう、『りき』お婆ちゃんったらあ」
爽やかな声が、ビエール・トンミー氏の頭の中に降ってきた。
(続く)
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