2020年3月6日金曜日

うつり病に導かれ[その36]






「陰性です」

ドクトル・ヘイゾーは、患者を見ないように気を付け、インフルエンザの検査結果を告げた。

「あらまそうですのん?」

何故か残念そうに、松坂慶美は、口を尖らせた。

「まだ苦しゅうおますのにい。ほら、せんせ、胸もまだドキドキしてますのよ」


と、松坂慶美は、ドクトル・ヘイゾーの手を取り、自身も胸に当てた。

「え!いやあ、ああ、お母さん…」

ドクトル・ヘイゾーは、慌てて手を引っ込めた。

「母さん!ダメよ!」

外田有紀も母親の腕を抑えた。

「あら、何しますのやあ」

と、松坂慶美が、娘を睨んだ時、

「(んぐっ!)」

ドクトル・ヘイゾーの両手は、白衣の上から、股間の上に当てられていた。

「ま、ま、まあ、お母さん、風邪だと思いますので、薬を処方しておきますから」
「あら、そうですのん。明日の朝になってもまだ熱が下がらへんどしたら、また来さしてもらいますわ」
「明日は、私は、学会でいないので…」
「あらま、どないしましょ?」
「明朝、まだ具合が悪そうでしたら、当クリニックには、もう一人医師がいますので」
「うちは、せんせに、また診て(見て)欲しゅうおますのに」
「(そりゃ、オレだって……いや、いやいや……違う、違う。オレは松坂慶子には興味はない!)」
「(ふん、根っからの熟女好きのくせに!)」

老看護婦オクマは、右手で電子カルテに入力するドクトル・ヘイゾーが、左手を白衣の股間部分に当てていることを見逃さなかった。


(続く)





0 件のコメント:

コメントを投稿