2020年3月25日水曜日

うつり病に導かれ[その55]






「ええー!」

『タノ9薬局』のカウンター越しに、お婆ちゃん薬剤師に手を握りしめ、頬ずりをされたビエール・トンミー氏は、驚いて思わず、自らの股間に目を落とした。握られた手ではなく、股間に。

「おや、ユーイチ、うふふ」

と、お婆ちゃん薬剤師は、カウンター越しにビエール・トンミー氏の股間を覗き込んだ。

「うぶぶう!」

ビエール・トンミー氏は、唸り声をあげながら、頭を大きく左右に振った。

「(違う!断じて違う!そんなはずはない!)」

自身の体の『変化』を認めたくなかった。『相手』は、お婆ちゃん、それもお婆ちゃんの権化とも云うべき存在だ。

「いいんだよ、ユーイチ!なんだったら、昔みたいにアタシのオッパイも咥えるかい?ふふ」

お婆ちゃん薬剤師は、ビエール・トンミー氏の手を自分の胸に持っって行こうとした。

「りき婆ちゃん、揶揄うのもいい加減にしろよなあ」

隣のカウンターで薬をもらっていた男が、声をかけてきた。

「まだボケてやいねえだろ。そいつさあ、若大将じゃねえこと、分ってるくせにさあ」

なんだか癖のある云い方であった。

「なんだよお、青大将」



『りき婆ちゃん』と呼ばれたお婆ちゃん薬剤師は、両頬を膨らませ、ようやくビエール・トンミー氏の手を離した。

「(な、なんだ、なんだ?若大将とか青大将とか?加山雄三の映画じゃあるまいし)」

と思いながら、隣のカウンターの男の方に顔を向けた。

「この婆さんさあ、イイ男を見ると、孫のユーイチと勘違いしたフリして揶揄うのさ」

と、口を歪めながら喋る男は、田中邦衛に酷似していた。


(続く)




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