(うつり病に導かれ[その54]の続き)
「ええー!」
『タノ9薬局』のカウンター越しに、お婆ちゃん薬剤師に手を握りしめ、頬ずりをされたビエール・トンミー氏は、驚いて思わず、自らの股間に目を落とした。握られた手ではなく、股間に。
「おや、ユーイチ、うふふ」
と、お婆ちゃん薬剤師は、カウンター越しにビエール・トンミー氏の股間を覗き込んだ。
「うぶぶう!」
ビエール・トンミー氏は、唸り声をあげながら、頭を大きく左右に振った。
「(違う!断じて違う!そんなはずはない!)」
自身の体の『変化』を認めたくなかった。『相手』は、お婆ちゃん、それもお婆ちゃんの権化とも云うべき存在だ。
「いいんだよ、ユーイチ!なんだったら、昔みたいにアタシのオッパイも咥えるかい?ふふ」
お婆ちゃん薬剤師は、ビエール・トンミー氏の手を自分の胸に持っって行こうとした。
「りき婆ちゃん、揶揄うのもいい加減にしろよなあ」
隣のカウンターで薬をもらっていた男が、声をかけてきた。
「まだボケてやいねえだろ。そいつさあ、若大将じゃねえこと、分ってるくせにさあ」
なんだか癖のある云い方であった。
「なんだよお、青大将」
『りき婆ちゃん』と呼ばれたお婆ちゃん薬剤師は、両頬を膨らませ、ようやくビエール・トンミー氏の手を離した。
「(な、なんだ、なんだ?若大将とか青大将とか?加山雄三の映画じゃあるまいし)」
と思いながら、隣のカウンターの男の方に顔を向けた。
「この婆さんさあ、イイ男を見ると、孫のユーイチと勘違いしたフリして揶揄うのさ」
と、口を歪めながら喋る男は、田中邦衛に酷似していた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿