(うつり病に導かれ[その49]の続き)
「祖父が申しておりました。『あの青年はハンサムなだけではなく優秀なんだ』と」
ドクトル・マリコは診察中であることを忘れ、眼の前の老患者を正面から見据え、祖父が住んでいた広島市牛田で見かけた美男高校生について語っていた。
「(まさか…)」
ビエール・トンミー氏も、診察を受けていることを忘れていた。
「確か、『ミナミ高校の生徒だ』、と」
ドクトル・マリコが、衝撃的な言葉を発した。ビエール・トンミー氏にとっては、衝撃的な言葉であった。
「(ええ、ええー!)」
「『ミナミ高校』と云っても、東西南北の『南』の高校ではありませんの。トンミーさんはご存じでしょうけれど」
「ええ、ええ!『カイジツ』と書いて『ミナミ高校』です。『皆』が『実』と書くんです」
「ええ、そうですわ!ひょっとして…」
「はい!私も広島皆実高校の出身です」
老患者は、胸を張った。
「まあ!」
「当時は、広島市内の公立高校の受験は、総合選抜制だったんです。だから、当時は皆実高校も優秀だったんです!」
「あら、今は違いましての?」
「いや、それは、まあ、そのお…」
「広島大学なんて普通に入れ、ハンカチ大学やOK牧場大学に進学する生徒もいる、って祖父に聞きましたわ」
「はい!私もハンカチ大学卒です。商学部です。フランス語経済学で『優』を取ったこともあります。『SNCF』も知っています」
と云ったものの、そんな自分に顔を赤らめた。
「まあ、素敵!」
「皆実高校の1年生からの友人は、OK牧場大学に入り、文学研究科修士課程を修了しています。『François MAURIAC論』を書いています」
「祖父から聞いていた通りの高校ですのね、皆実高校って。比治山にも近くていい所にもありますものね」
「え!?皆実高校にいらしたことがあるんですか?」
(続く)
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