(うつり病に導かれ[その52]の続き)
「…ああ…『エヴァPay』、使えますか?」
熱に浮かされながらも、ビエール・トンミー氏は、『ギャランドゥ・クリニック』の受付で、スマフォ決済を口にした。昨年(2019年)10月以来、ポイント集めに必死となっているのだ。
「は?『エヴァPay』?なんですか。それ?使えません」
と、あっさりと否定され、現金で支払を済ませ、処方箋を手に、ふらつきながら『ヘイゾー・クリニック』を出た。
「ふうう…」
第二診察室にいた間は、沢口靖子、いや、沢口靖子に酷似したドクトル・マリコのお陰で『元気』になっていたが、病から恢復した訳ではないのだ。
「(ここか…)」
薬局は、『ヘイゾー・クリニック』と同じ医療ビルの中にあった。
「(『タノ9』?変った名前だ。どう読むんだ?…)」
『タノ9薬局』が、その薬局の名前であった。
「少々お待ち下さい」
受付に処方箋を渡し、椅子に座り、眼を閉じ、待つ。
……と、
「『肉感的な』子は、ねえ」
再び、友人のエヴァンジェリスト少年の声が聞こえてきた。
「バレーボール部のエースだったんだ」
(参照:ハブテン少年[その124])
広島市の『被服廠』であった(正式には『被服支廠』らしいが、当時、地元では『被服廠』と呼んでいた)の横の道路である。
「ブルマから出た太ももの張りがねえ…」
と、友人は、歩みを止め、鞄を持たぬ右手を股間に当て、
「んぐっ!」
と喉を鳴らした。
「ふうん、そうなんだ」
と、ちゃんと返事はしたのは、エヴァンジェリスト少年が唯一人の友人であったからだ。
「(そうだ。今もそうだが、ボクには友人は殆どいない。アイツだけが友人だ。だから、毎日、牛田からわざわざ青バス(広電バス)に乗って、中国自動車学校前まで行き、翠町中学の東側の道を北上し、翠町のアイツのウチまで行き、一緒に皆実高校まで通学するようにしたのだ、あの頃は…….ん?)」
目を閉じたまま、ビエール・トンミー氏は、首を捻った。
「トンミーさん!」
と、名前を呼ばれ、重い瞼を上げたビエール・トンミー氏は、自分が薬局にいることを思い出した。
「はい…」
と弱った声で返事し、ふらつきの残る体を起き上がらせ、半透明のパーティションで仕切られたカウンターの一つに向った。
「えっ!」
眼も虚ろなまま、カウンターに肘をついたビエール・トンミー氏は、思わず声を上げた。
(続く)
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