(うつり病に導かれ[その44]の続き)
「陰性です」
ドクトル・マリコは、インフルエンザの検査結果を告げた。
「はああ……」
高熱のビエール・トンミー氏は、呆けた反応しかできない。
「風邪だと思いますが、肺炎かもしれませんので、念の為、レントゲンを撮りましょう」
ビエール・トンミー氏は、ドクトル・マリコに連れられ、レントゲン室に入った。
「うっ!」
ドクトル・マリコは、思わず噎せた。患者に着ているものを脱がせた時、饐えたような猛烈な臭いに襲われたのだ。
「(え、何なの、これ!?)」
ビエール・トンミー氏が脱いだものはノルディック風のセーターのように見えたが、実は、ビエール・トンミー氏が寝ている時も起きている間も、そして、外出している時も着ているパジャマであった。もう3ヶ月洗濯していないものであった。ドクトル・マリコは、そのことを知る由もなかったが…….
「(んぐっ!)」
女医の思考とは別に、彼女のある部分が敏感に『反応』した。
「(違うの!違うのよ!)」
何が違うのか分らなかったが、ドクトル・マリコは、その場を早く脱出しなければ、と患者の胸をレントゲン装置の平面センサー部に押し付けた。
「(んぐっ!)」
呆けたようであった患者が、思わず声を発した。
「あ!」
ドクトル・マリコも声を発した。患者の胸をレントゲン装置の平面センサー部に押し付けた際に、自分の胸の『先端』が患者の背中に当ったのだ。
「(んぐっ!違うの!違うのよ!)」
ドクトル・マリコは急いで患者から離れ、レントゲン室を出た。
(続く)
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