2020年3月15日日曜日

うつり病に導かれ[その45]






「陰性です」

ドクトル・マリコは、インフルエンザの検査結果を告げた。

「はああ……」

高熱のビエール・トンミー氏は、呆けた反応しかできない。

「風邪だと思いますが、肺炎かもしれませんので、念の為、レントゲンを撮りましょう」

ビエール・トンミー氏は、ドクトル・マリコに連れられ、レントゲン室に入った。

「うっ!」

ドクトル・マリコは、思わず噎せた。患者に着ているものを脱がせた時、饐えたような猛烈な臭いに襲われたのだ。

「(え、何なの、これ!?)」

ビエール・トンミー氏が脱いだものはノルディック風のセーターのように見えたが、実は、ビエール・トンミー氏が寝ている時も起きている間も、そして、外出している時も着ているパジャマであった。もう3ヶ月洗濯していないものであった。ドクトル・マリコは、そのことを知る由もなかったが…….

「(んぐっ!)」

女医の思考とは別に、彼女のある部分が敏感に『反応』した。

「(違うの!違うのよ!)」

何が違うのか分らなかったが、ドクトル・マリコは、その場を早く脱出しなければ、と患者の胸をレントゲン装置の平面センサー部に押し付けた。



「(んぐっ!)」

呆けたようであった患者が、思わず声を発した。

「あ!」

ドクトル・マリコも声を発した。患者の胸をレントゲン装置の平面センサー部に押し付けた際に、自分の胸の『先端』が患者の背中に当ったのだ。

「(んぐっ!違うの!違うのよ!)」

ドクトル・マリコは急いで患者から離れ、レントゲン室を出た。


(続く)



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