2020年3月17日火曜日

うつり病に導かれ[その47]






「(しっかりするのよ、マリコ!)」

第2診察室に戻ったドクトル・マリコは、自らを励ました。

「(私は、医者よ。患者に、それもあんな爺さん患者に翻弄されるなんて!)」

そして、シャウカステンのレントゲン写真を見入った。

「(大好きだった祖父が切っ掛けで医者になったのよ)」

祖父の顔を思い出す。

「(そういえば、あの爺さん、どこか祖父に似ていた。でも、祖父はあんなに臭くはなかった)」

と、鼻腔にレントゲン室で老患者に浴びせられて臭気が蘇った。

「(んぐっ!)」

両足を窄める。

「(いけない!いけない!しっかりして、マリコ!私は、医者よ)」

ドクトル・マリコは、広島で被爆した祖父が甲状腺癌を患い、亡くなったことから医者の道を選んだ。だから大学病院では、内分泌代謝科を選び、当時、甲状腺疾患の権威であり内科医局長だったドクトル・ヘイゾーに師事し、ドクトル・ヘイゾーの後を追うようにして甲状腺疾患を専門とする病院に勤務、その後、ドクトル・ヘイゾーが開業したこのクリニックに勤務するようになっていたのだ。




「トンミーさん、お座り下さい」

看護師ドモンが、レントゲン室から戻ったビエール・トンミー氏に促した。


(続く)





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