(うつり病に導かれ[その46]の続き)
「(しっかりするのよ、マリコ!)」
第2診察室に戻ったドクトル・マリコは、自らを励ました。
「(私は、医者よ。患者に、それもあんな爺さん患者に翻弄されるなんて!)」
そして、シャウカステンのレントゲン写真を見入った。
「(大好きだった祖父が切っ掛けで医者になったのよ)」
祖父の顔を思い出す。
「(そういえば、あの爺さん、どこか祖父に似ていた。でも、祖父はあんなに臭くはなかった)」
と、鼻腔にレントゲン室で老患者に浴びせられて臭気が蘇った。
「(んぐっ!)」
両足を窄める。
「(いけない!いけない!しっかりして、マリコ!私は、医者よ)」
ドクトル・マリコは、広島で被爆した祖父が甲状腺癌を患い、亡くなったことから医者の道を選んだ。だから大学病院では、内分泌代謝科を選び、当時、甲状腺疾患の権威であり内科医局長だったドクトル・ヘイゾーに師事し、ドクトル・ヘイゾーの後を追うようにして甲状腺疾患を専門とする病院に勤務、その後、ドクトル・ヘイゾーが開業したこのクリニックに勤務するようになっていたのだ。
「トンミーさん、お座り下さい」
看護師ドモンが、レントゲン室から戻ったビエール・トンミー氏に促した。
(続く)
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