(うつり病に導かれ[その53]の続き)
「(な、なんだ?)」
『タノ9薬局』のカウンター越しにいきなり手を掴まれたビエール・トンミー氏は、熱の為、元々揺らついていた体を更に、揺らせ、倒れそうになった。
「ユーイチ、大丈夫かい?」
熱のせいか、見知らぬ名前で呼ばれたように聞こえた。
「うっ、ぷっ…ぷう!」
と、息を吐き出し、前方に向けた。
「熱が高いのかい?」
赤い唇が、向ってきていた。
「ええ!」
怯んで、身を椅子の背に倒した。
「だいぶ、苦しそうだねえ、ユーイチ」
熱がより高くなってきているように思えた。
「お婆ちゃんが治してあげるよ」
カウンター向こうにいるのは、お婆ちゃん薬剤師であった。
「え?!」
どこかで見たことのある顔であった。
「(飯田蝶子!?)」
そう、おばあちゃん薬剤師は、飯田蝶子に酷似していた。ただ、唇だけは、飯田蝶子と違い、やけに赤く塗られていた。
「アンタが子どもの頃はさあ、熱を出すと、アタシの柔肌に包んでずっと抱きしめてあげたもんだよお」
飯田蝶子は、いや、飯田蝶子に酷似したおばあちゃん薬剤師は、さらに強くビーエル・トンミー氏の手を握りしめ、頬ずりをしてきた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿