2020年3月24日火曜日

うつり病に導かれ[その54]






(な、なんだ?)」

『タノ9薬局』のカウンター越しにいきなり手を掴まれたビエール・トンミー氏は、熱の為、元々揺らついていた体を更に、揺らせ、倒れそうになった。

「ユーイチ、大丈夫かい?」

熱のせいか、見知らぬ名前で呼ばれたように聞こえた。

「うっ、ぷっ…ぷう!」

と、息を吐き出し、前方に向けた。

「熱が高いのかい?」

赤い唇が、向ってきていた。


「ええ!」

怯んで、身を椅子の背に倒した。

「だいぶ、苦しそうだねえ、ユーイチ」

熱がより高くなってきているように思えた。

「お婆ちゃんが治してあげるよ」

カウンター向こうにいるのは、お婆ちゃん薬剤師であった。

「え?!」

どこかで見たことのある顔であった。

「(飯田蝶子!?)」

そう、おばあちゃん薬剤師は、飯田蝶子に酷似していた。ただ、唇だけは、飯田蝶子と違い、やけに赤く塗られていた。

「アンタが子どもの頃はさあ、熱を出すと、アタシの柔肌に包んでずっと抱きしめてあげたもんだよお」

飯田蝶子は、いや、飯田蝶子に酷似したおばあちゃん薬剤師は、さらに強くビーエル・トンミー氏の手を握りしめ、頬ずりをしてきた。


(続く)



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