2018年4月22日日曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その66]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、変態である友人ビエール・トンミー氏に、「『曲がったことが嫌いな』君は、女性に(奥様以外の女性に)、『今日ね、抱きしめていい?縛っていい?』とストレートに云うのではないか」と後に訊くことになることを、まだ知らなかった


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エヴァンジェリスト氏は、1980年、当時住んでいた上池袋の下宿の『3.75畳』で、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れたまま、

「あ……んん……」

という、女性が男性に『哭かされている声』を聞いていた。

「こんな安普請の下宿でけしからん!この下宿でソンナことをすると、聞こえるに決まっているではないか!」

と怒りながらも、

「あ……んん……」

という『哭き声』が聞こえたその日以降、エヴァンジェリスト氏は、その『哭き声』が耳にこびりつき、François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)の主人公である老人の心の闇に思いを寄せることができなくなった。

時々、

「あ……んん……」

という『哭き声』がまた聞こえてきたような気がして、その度に、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れ、体を『く』の字に『曲げたまま』、天井に向って耳をすませるようになった。

「けしからん!」

と呟きながらも、心の底で『哭き声』を期待している自分をエヴァンジェリスト氏は知っていた。

エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』である。

だから、自身の本心を誤魔化すことはできなかった。だから、この『哭き声』事件から学んだことがあることもエヴァンジェリスト氏は隠すことができなかった。

だから、『哭き声』事件から3年の後の1983年、エヴァンジェリスト氏は、『3.75畳』に『女』を連れ込み(いや、招き入れ)、ソレをする時、押入れの襖をキチンと締め、出来るだけ『女』に大きな『哭き声』を上げさせないよう気を付けることにしたのだ。

安普請の下宿で他の部屋に聞こえるようにソレをしてはならない、と思ったのだ。

だったら、そもそもそんな安普請の下宿に『女』を連れ込まなければいいものであるが、

「不可抗力であった」

とエヴァンジェリスト氏は思う。






「だって、高熱が出ていたのだ」

と、エヴァンジェリスト氏は、誰に対してかは分らないが、そう弁解する。

1983年のその時、確かにエヴァンジェリスト氏は、高熱を発していた。

「辛い……熱がある。高い熱だ……」




エヴァンジェリスト氏は朦朧としたまま、下宿を出て、明治通り沿いにある近くの公衆電話ボックスにいた。

「だからあ、私にどうしろ、と云うの?」

電話の向こうの女性は、イライラしていた。

「いいんだ、いいんだよ。ボクは熱があって辛い。買い物もできない」

公衆電話ボックスまで出てきているのに、若きエヴァンジェリスト氏は、平気でそう云った。

「分ったわよお!」

女性は、そう言い放つと電話を切った。



(続く)



2018年4月21日土曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その65]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、仕事を完全リタイアした後も『西洋美術史』を学ぶ程、向学心はあるものの、やはり変態である友人ビエール・トンミー氏が、散歩に行く時だけではなく、銀行に行くときですら、パジャマのまま出かける程にパジャマ『一筋』になることを、まだ知らなかった。


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「あ……んん……」

という泣き声が、『3.75畳』の入口側にあった半間の押入れから聞こえてきた。

1980年、エヴァンジェリスト氏は、当時住んでいた上池袋の下宿である。

「けしからん!」

その下宿の『3.75畳』で、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れたまま、怒っていた。

「あ……んん……」

という泣き声は、女性のものであった。しかも、その泣き声は、『泣き声』ではなく、女性が男性に『哭かされている声』であった。

「こんな安普請の下宿でけしからん!この下宿でソンナことをすると、聞こえるに決まっているではないか!」

下宿の一番奥の部屋に住む醜男が、『女』(多分、ブスだ)を部屋に連れ込むところに遭遇したことを思い出した。

「羨ましくなんかないぞ。だが、許せん!『女』を下宿に連れ込み、他の部屋に聞こえるように『女』『哭かせる』なんて『曲がったこと』は大っ嫌いだ!」

しかし、半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れることで、エヴァンジェリスト氏の体は『く』の字に『曲がったまま』ままの姿勢で、なおも、

「あ……んん……」

という『哭き声』を聞こうとしていた。

その日、エヴァンジェリスト氏はもう、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に向うことができず、翌日からまた、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に向ったが、時々、

「あ……んん……」

という『哭き声』がまた聞こえてきたような気がした。

そして、その度に、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れ、体を『く』の字に『曲げたまま』、天井に向って耳をすませた。

二度と、

「あ……んん……」

という『哭き声』が聞こえてくるようなことはなかったが、エヴァンジェリスト氏の股間は硬直し、発熱した。

「けしからん!」

と呟きながらも、心の底で『哭き声』を期待している自分を知っていたし、そして、また、この『哭き声』事件から学んだこともあったのだ。






エヴァンジェリスト氏は、『哭き声』事件から学んだ。

上池袋のその下宿では、『女』を連れ込んで、ソレをする時、『女』に大きな『哭き声』を上げさせてはいけない、ということを学んだ。

上池袋のその下宿では、押入れの襖を開けたまま、ソレをしてはいけない、ということも学んだ。



だから、『哭き声』事件から3年の後の1983年、エヴァンジェリスト氏は、『3.75畳』に『女』を連れ込み(いや、招き入れ)、ソレをする時、押入れの襖をキチンと締め、出来るだけ『女』に大きな『哭き声』を上げさせないよう気を付けた。

エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』である。

だから、安普請の下宿で他の部屋に聞こえるようにソレをしてはならない、と思ったのだ。

だったら、そもそもそんな安普請の下宿に『女』を連れ込まなければいいものであるが、

「不可抗力であった」

とエヴァンジェリスト氏は思う。



(続く)



2018年4月20日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その64]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、仕事を完全リタイアした後も『西洋美術史』を学ぶ程、向学心はあるが、やはり変態である友人ビエール・トンミー氏が、散歩に行く時だけではなく、銀行に行くときですら、パジャマのまま出かける程にパジャマ『一筋』になることを、まだ知らなかった。


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「けしからん!」

1980年、エヴァンジェリスト氏は、当時住んでいた上池袋の下宿の『3.75畳』で、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れたまま、怒っていた。

「あ……んん……」

という泣き声が、『3.75畳』の入口側にあった半間の押入れから聞こえてきたのだ。

最初、隣の『お兄さん』の部屋から聞こているかと思ったが、、それは、隣の『お兄さん』の部屋の隣の部屋の『お父さん』の鳴き声でもなかった。

「あ……んん……」

という泣き声は、女性のものであった。しかも、その泣き声は、『泣き声』ではなく、女性が男性に『哭かされている声』であった。

そして、下宿の一番奥の部屋に住む醜男が、『女』を部屋に連れ込むところに遭遇したことを思い出した。

「醜男のくせに!どうせ、『女』もブスだ」

そう思ったが、股間の硬直と発熱はそのままであった。

「こんな安普請の下宿でけしからん!この下宿でソンナことをすると、聞こえるに決まっているではないか!」

と怒りながらも、エヴァンジェリスト氏はまだ、身を押入れの中に入れたままであった。

「羨ましくなんかないぞ。だが、許せん!『女』を下宿に連れ込み、他の部屋に聞こえるように『女』『哭かせる』なんて『曲がったこと』をするのは大っ嫌いだ!」

しかし、半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れることで、エヴァンジェリスト氏の体は『く』の字に『曲がったまま』であった。

『曲がった』姿勢のまま、エヴァンジェリスト氏はなお、

「あ……んん……」

という『哭き声』を聞こうとしていた。






「あ……んん……」

という『哭き声』が聞こえたその日、エヴァンジェリスト氏はもう、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に向うことができなかった。

「あ……んん……」

という『哭き声』が耳にこびりつき、François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)の主人公である老人の心の闇に思いを寄せることができなくなった。

エヴァンジェリスト氏の頭の中で『絡み合っていた』のは、蝮ではなく、あの醜男とあの『女』(多分、ブス)であった。

次の日から、エヴァンジェリスト氏はまた、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に向った。

しかし、時々、

「あ……んん……」

という『哭き声』がまた聞こえてきたような気がした。





そして、その度に、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れ、体を『く』の字に『曲げたまま』、天井に向って耳をすませた。

二度と、

「あ……んん……」

という『哭き声』が聞こえてくるようなことはなかったが、エヴァンジェリスト氏の股間は硬直し、発熱した。

「けしからん!」

と呟きながらも、心の底で『哭き声』を期待している自分をエヴァンジェリスト氏は知っていた。

エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』である。

だから、自身の本心を誤魔化すことはできなかった。

エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』である。

だから、この『哭き声』事件から学んだことがあることもエヴァンジェリスト氏は隠すことができない。


(続く)



2018年4月19日木曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その63]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、仕事を完全リタイアした後も『西洋美術史』を学ぶ程、向学心はあるが、やはり変態である友人ビエール・トンミー氏が、散歩に行くにもパジャマのまま出かける程にパジャマ『一筋』になることを、まだ知らなかった。


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「あ……んん……」

1980年、エヴァンジェリスト氏は、当時住んでいた上池袋の下宿の『3.75畳』で、炬燵に脚を入れ、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に向っていた時、泣き声が聞こえてきた。

泣き声がしていたのは、『3.75畳』の入口側にあった半間の押入れからであった。

エヴァンジェリスト氏は、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れた。

「あ……んん……」

最初、隣の『お兄さん』の部屋から聞こているかと思ったが、、それは、隣の『お兄さん』の部屋の隣の部屋の『お父さん』の鳴き声でもなかった。

「あ……んん……」

という泣き声は、女性のものであったからなのだ。

そして、その泣き声は、『泣き声』ではなく、女性が男性に『哭かされている声』であった。

そして、思い出した。下宿の一番奥の部屋に住む『あの男』が、『女』を部屋に連れ込むところに遭遇したことを。

『あの男』の顔が浮かんできた。

「醜男のくせに!」

そして、『あの男』に肩を抱かれ、長い髪で顔を隠すようにし、その顔を男の胸の寄せている女を思い出した。

「どうせ、『女』もブスだ」

そう思ったが、股間の硬直と発熱はそのままであった。

醜男とブスとではあれ、二人は今、『ソレ』をしているのだ。

「けしからん!」

怒りのせいかどうかは分らなかったが、エヴァンジェリスト氏の股間は更に硬直した。






「こんな安普請の下宿でけしからん!」

と呟きながら、エヴァンジェリスト氏は、

「あ……んん……」

という『哭き声』をもっと聞こうと、半間の押入れの天井の方により耳を傾けた。





「この下宿でソンナことをすると、聞こえるに決まっているではないか!」

と怒りながらも、エヴァンジェリスト氏はまだ、身を押入れの中に入れたままであった。

「あんなブスとは、多分ブスであろう『女』と、シタイとは思わない」

モテてきた男のプライドであった。

「羨ましくなんかないぞ。だが、許せん!」

エヴァンジェリスト氏の顔は、怒りの形相となっていた。

『女』を下宿に連れ込み、他の部屋に聞こえるように『女』『哭かせる』なんて『曲がったこと』は大っ嫌いだ!」

しかし、半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れることで、エヴァンジェリスト氏の体は『く』の字に『曲がったまま』であった。

『曲がった』姿勢のまま、エヴァンジェリスト氏はなお、

「あ……んん……」

という『哭き声』を聞こうとしていた。


(続く)



2018年4月18日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その62]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、変態だが向学心のある友人ビエール・トンミー氏が、仕事を完全リタイアした後、自身が学ぶ『西洋美術史』を教える美人講師と巡る西洋美術史ツアーには、自身のソコが固く『真っ直ぐ』になる程、参加したかったし、そのお金の工面に困ることもなかったが、それ以上に妻を『真っ直ぐに』愛する為、ツアー参加を見送ることになることを、まだ知らなかった。


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1980年、エヴァンジェリスト氏は、当時住んでいた上池袋の下宿の『3.76畳』で、炬燵に脚を入れ、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に向っていた。

その日、小用をたす為、部屋を出た。

その時、下宿の一番奥の部屋に住む醜男が、女を連れ込んでくるところに出くわし、

「この『美貌』を持つ自分に今、『女』がいないのに、何故、『あの男』に『女』がいるのだ!まあ、『女』と云ったって、あの醜男の『女』だ。ブスだろうよ」

と、怒りは覚えたものの、小用を終え、再び、『François MAURIAC論』の執筆に戻り、François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)の主人公である老人への共感に、堪らなさと共に、苦しい歓びも感じていた。

その時であった。

エヴァンジェリスト氏の『3.75畳』の部屋に泣き声が聞こえてきた。

「あ……んん……」

泣き声がしていたのは、『3.75畳』の入口側にあった半間の押入れからであった。

エヴァンジェリスト氏は、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れた。

「あ……んん……」

最初、隣の『お兄さん』の部屋から聞こているかと思ったが、その泣き声は、押入れの天井を通して聞こえてきていることが判った。

しかし、それは、隣の『お兄さん』の部屋の隣の部屋の『お父さん』の鳴き声でもなかった。

「あ……んん……」

という泣き声は、女性のものであったからなのだ。

そして、思い出した。下宿の一番奥の部屋に住む『あの男』が、『女』を部屋に連れ込むところに遭遇したことを。

そう、

「あ……んん……」

という泣き声は、『泣き声』ではなく、『哭き声』であったのだ。






「あ……んん……」

という泣き声は、『泣き声』ではなく、女性が男性に『哭かされている声』であったのだ。

半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れたエヴァンジェリスト氏の股間が、固く、熱くなった。

しかし、『あの男』の顔が浮かんできた。

「醜男のくせに!」

そして、『あの男』に肩を抱かれ、長い髪で顔を隠すようにし、その顔を男の胸の寄せている女を思い出した。





「どうせ、『女』もブスだ」

そう思ったが、股間の硬直と発熱はそのままであった。

醜男とブスとではあれ、二人は今、『ソレ』をしているのだ。

『女』は、『あの男』に何をされているのか、より具体的には何をされているのかは勿論、分らなかったが、何かをされて『哭かされている』ことは間違いない。

「けしからん!」

怒りのせいかどうかは分らなかったが、エヴァンジェリスト氏の股間は更に硬直した。


(続く)



2018年4月17日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その61]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、変態だが向学心のある友人ビエール・トンミー氏が、仕事を完全リタイアした後、『西洋美術史』という勉学に勤しむようになり、更に、それを教える美人講師と巡る西洋美術史ツアーがあることを知った時、自身のソコが固く『真っ直ぐ』になることを、まだ知らなかった。


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エヴァンジェリスト氏は、1980年に、当時住んでいた上池袋の下宿で、小用をたす為、部屋を出た。

その時、下宿の一番奥の部屋に住む醜男が、女を連れ込んでくるところに出くわした。

「はあ~ん?」

『あの男』に『女』がいるのか?あの醜男にどうして?

エヴァンジェリスト氏は、中学生時代、下級生の女子生徒の憧れの的であり、広島県立広島皆実高校では、持ち前の美貌から、

「君、演劇部に入らない?」

と、演劇部の部長である上級生の女子生徒からスカウトを受ける程であった。

しかし、エヴァンジェリスト氏の憤懣は収まらなかった。

「この『美貌』を持つ自分に今、『女』がいないのに、何故、『あの男』に『女』がいるのだ!まあ、『女』と云ったって、あの醜男の『女』だ。ブスだろうよ」

そう、自分を納得させ、エヴァンジェリスト氏は、炬燵に脚を入れ、書きかけの修士論文『François MAURIAC論』に向った。

François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)の主人公である老人は、妻となる女性の涙を見て幸せな愛の涙だと思ったが、後に妻に対して、思う。

「君がこう云ったのは本当なのだ。『何でもないの。貴方の側にいるから』と」

モーリアック的レトリックである。

「君は嘘をついていた訳ではない、この嘘つきめ!確かに、君は、私の側にいたから泣いたのだ。……私の側にいて、別の男の側にいたのではなかったからなのだ」

主人公の妻には、夫と結婚する前に好きな男がいたのだ。

主人公の老人の孤独は、モーリアックの心の闇であり、若きエヴァンジェリスト氏自身の心の闇でもあった。

エヴァンジェリスト氏は、その思いを修士論文『François MAURIAC論』として書こうとしていたのだ。

その時であったのだ。

エヴァンジェリスト氏の『3.75畳』の部屋に泣き声が聞こえてきたのは。

「あ……んん……」






泣き声がしていたのは、『3.75畳』の入口側にあった半間の押入れからであった。

エヴァンジェリスト氏は、開けっ放しとしている半間の押入れの上段に両肘を付き、上半身を押入れの中に入れた。

「あ……んん……」

微かだが、泣き声が聞こえる。

最初、隣の『お兄さん』の部屋から聞こているかと思ったが、

「あ……んん……」

という泣き声は、押入れの天井を通して聞こえてきていることが判った。

しかし、それは、隣の『お兄さん』の部屋の隣の部屋の『お父さん』の鳴き声でもなかった。

「あ……んん……」

という泣き声は、女性のものであったからなのだ。

「どこかの部屋に女性が訪れてきており、何か揉め事でもあり泣き出したのであろうか……..」

と思った時、思い出した。

下宿の一番奥の部屋に住む『あの男』が、『女』を部屋に連れ込むところに遭遇したことを思い出した。

そう、

「あ……んん……」

という泣き声は、『泣き声』ではなく、『哭き声』であったのだ。





(続く)