1995年であった。
大分での仕事を終えたエヴァンジェリスト氏は、大分駅に急いだ。
宮崎に行く特急『にちりん』の発車時刻が迫っていたからである。
宮崎までの乗車券と指定席特急券を買い、改札を通ると、発車時刻まで後、5分程であった。
「間に合った」
エヴァンジェリスト氏は、ホッとした。
ホッとしたが、ホッとすると同時に、あることに気付いた。
「オシッコをしたい」
そして、『しまった』、と思った。
トイレがすぐに見つからない。トイレの場所が分ったとしても、駅の構内のトレイにはできれば行きたくはなかった。駅のトイレは、一般に余り綺麗ではないからだ。
改札を通過したその時、尿意を覚え、『しまった』、と思ったが、いやいや、そんなことは『問題』ではないのだ。
エヴァンジェリスト氏は、思った。
「ボクは、コドモではないのだ。我慢というものをボクはできるのだ」
確かに、エヴァンジェリスト氏は、コドモではなかった。しかし、エヴァンジェリスト氏は、世間をなめていた。
いや、『九州』をなめていた。
(参照:見てはいけないもの(その10 )[M-Files No.1 ]の続き)
「オシッコは、特急『にちりん』のトイレですればいい」
エヴァンジェリスト氏は、そう思い、宮崎に向かう特急『にちりん』の指定席に座った。
「オシッコをしたい」
脳というよりも股間がそう思っていた。
だが、エヴァンジェリスト氏は直ぐにはトイレには向かわなかった。
特急に乗って直ぐにトイレに行くことはみっともないと思ったのだ。誰が見ている、誰が気にするというものではないとは分っていたが、自分なりの拘りであった。
「ボクは、コドモではないのだ。我慢というものをボクはできるのだ」
しかし、股間は、
「そろそろヤバい」
と思い始めていた。
特急『にちりん』が大分駅を出て5分して、エヴァンジェリスト氏は席を立ち、トイレに向かった。
乗った特急『にちりん』は、その年(1995年)デビューの新型車両『ソニック』ではなく、485系の旧型の車両であった。
485系はかなり古い車両であり、座席周りもかなりくたびれた感じであり、トイレも余り綺麗そうではなかった。
しかし、『事態』はもう、綺麗とか綺麗でない、とか云っている場合ではなくなっていた。
「急げ!」
股間が命令していた。
エヴァンジェリスト氏は、デッキに出て、トイレの前に立った。
そして、迷わず引き戸の扉を開けた。
「…っ、は….っ…….」
エヴァンジェリスト氏は、その場に立ち竦んだ。
(続く)
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