エヴァンジェリスト氏は、見てはいけないものを見てしまった。
1995年である。
大分駅から宮崎に行く特急『にちりん』のトイレの扉を開けたエヴァンジェリスト氏は、そこに『見てはいけないもの』を見てしまった。
トイレの中にしゃがみ、お尻をむき出しにして用を足しているお婆さんを見てしまったのだ。
「お婆さんは、ボクを覗き魔と思ったかもしれない」
と思うと、自分が犯罪者になったような気がし、不安に襲われたが、
「そうだ。トイレの扉に鍵をかけていなかったお婆さんの方が悪いのだ!そのせいで、ボクは見たくもないものを見る羽目になったのだ。犠牲者はボクの方なのだ。お婆さんがボクを見つけ、何か云ってきたら、そう言い返してやる。鉄道警察だって怖くないぞ」
と思うようになり、段々、落ち着きを取り戻してくると、股間は、ますますこう思うようになった。
「オシッコをしたい」
トイレに行きたかった。だが、まだあのお婆さんがトイレの中でしゃがんでいるかもしれない。
そう思うと、なかなかトイレに向かう勇気が湧いてこなかった。
しかし、股間の方も限界が近付いて来ていた。
「オシッコをしたい」
(参照:見てはいけないもの(その14 )[M-Files No.1 ]の続き)
エヴァンジェリスト氏は、勇気を奮い起こした。トイレに行くことにしたのだ。
お婆さんのお尻を見てから、15分が経っていた。さすがにお婆さんはもうトイレにいないであろうと思った。
股間も脅して来ていた。
「早くしろ!そうしないと、漏らすぞ!いいのか、あの頃のように……」
ゾッとした。『あの頃のように』になりたくはなかった。
もう30年以上経過しているので、自分以外の誰も知らないと思っていたが、股間は知っていたのだ。それはそうだろう。『股間』は、エヴァンジェリスト氏『自身』であるからだ。
「ごめんだ!もう『あの頃』のようにはなりたくはない」
そう思いながら、席を立ち、デッキを通り、再び、トイレの前に立った。
トイレの扉には、『空き』のサインが出ていた。
それを確認すると、エヴァンジェリスト氏は、扉の取っ手を取り、躊躇なくサッと横に引いた。
「…っ、は….っ…….」
エヴァンジェリスト氏は、その場に立ち竦んだのであった。
(続く)
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