※ ビエール・トンミー氏のアーカイヴ『B-Files』だ。
町内(翠町)の小学生ソフトボール・チームでは、控えの投手兼9番ライト、つまり、『ライ9』であったエヴァンジェリスト氏に対抗するように、ビエール・トンミー氏は、呟いた。
「いや、ボクの方こそ…..」
エヴァンジェリスト氏は、最高の友人であると共に、最大のライバルでもあるのだ。
エヴァンジェリスト氏は、自身のスポーツ劣等生ぶりを『売り』にしているようではないか。それが悔しかった。
(参照:『一振り2万円』(後編)[B-Files No.2]の続き)
「ボクは、『ライ9』以上だったのだ」
独り自分の部屋で、妻に云うでもなく、他の誰に云うでもなく、ビエール・トンミー氏は、独り言ちた。
「新入社員時代、最初に配属された工場にも野球部があった。新入社員はその野球部に「強制入部」させられた。ユニフォームも新調した」
そこで、ビエール・トンミー氏は、
「ふふ」
と笑った。
「ふふ。背番号は『10番』であったのだ」
ビエール・トンミー氏の目は、遠くを凝視めていた。遠い過去に想いを馳せていた。
「昼休みは当然、毎日野球の『稽古』だ。近隣のチームや他の工場と試合をしていた。ポジョンは『可動のライト』。つまりメンバーが足りない時だけライトを守った。そう、『ライ10』だったのだ。どうだ!『ライ9』以上だろう!エヘン!」
ビエール・トンミー氏は、自慢げだ。
「ライトを守った、とは云っても、実際は全然守れなくエラーばかりしていた。なにしろ、『ボールよ飛んで来るな来るな』と必死に願っている外野手の所にボールが飛んで来た場合、捕れるワケがない。エヘン!」
スポーツ劣等生ぶりは、自分の方がウエだ、とばかりの自惚れ爺さんだ。
「福岡工場まで遠征した時、何故か『可動のライト』に打席に立つ機会があり、一球目をサード・ゴロにして目出度くアウトになった。これぞ、『ライ10』だ。エヘン!」
もう手がつけられない。誰が聞いている訳でもないのだが。
「打席はこの一回だけ。遠征費用が2万円だったから、『一振り2万円』也ということだ。エヘン!」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿