2017年9月4日月曜日

ヘイズ(世界記録)に並んだ(後編)[B-Files No.1 ]



※ ビエール・トンミー氏のアーカイヴ『B-Files』だ。


「しかし、ボクだって…..」

最高の友人にして最大のライバルであるエヴァンジェリスト氏が、小学6年生の時、50m走で「6秒9」という驚異の記録を出していたことが悔しいビエール・トンミー氏は、口の端をやや歪めながら呟いた。

「ボクは、ヘイズに並んだんだ」




独り自分の部屋で、妻に云うでもなく、他の誰に云うでもなく、独り言ちたのだ。

「ボクは、『10秒0』という記録を出したのだ。小学4年生の時だ」

ビエール・トンミー氏が小学4年であったのは(勿論、エヴァンジェリスト氏も小学4年生であった)、1960年である。

だから、『10秒0』というその記録をよく覚えているのだ。

1960年は、東京オリンピックの開催された年であった。

その東京オリンピックの100m走で、アメリカのヘイズ選手が出した世界タイ記録が『10秒0』であったのだ。

「皆、驚くであろうが、これは『事実』なのだ」

誰が聞いている訳でもないのに、ビエール・トンミー氏はムキになっていた

「誰がなんと云おうと、ボクは、ヘイズに並んだんだ。ヘイズとどうタイムを出したのだ」



そうだ、その通りだ。ビエール・トンミー氏は正しい。

ビエール・トンミー氏は、小学4年ながら『10秒0』という記録を出したのだ。

そして、『10秒0』は、東京オリンピックの100m走で、アメリカのヘイズ選手が出した世界タイ記録と同タイムだ。

しかし、ビエール・トンミー氏が、独り言ながら、口にしていない『事実』があった。

ビエール・トンミー氏の、いや、小学4年生のビエール・トンミー君の記録は、50m走でのものであったのだ。

だから、ビエール・トンミー君が『10秒0』の記録と打ち立てた時、先生も同級生もどよめかなかった。

「距離は半分だけど、記録は同じだ」

と、ビエール・トンミー君自ら独り、何故か誇らしく思っただけであったのだ。


(おしまい)



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