「あ、あーっ!」
引くような叫び声が上った。
『少年』は、『態勢』はそのまま、斜め後ろを振り向いた。
『少女』が、両眼共に大きく見開き、軀が固ったまま、その場に立ちすくんでいた。
『少年』は、叫び声も上げることができなかった。どうしていいのか、分らなかった。というよりも、思考が完全に停止していた。
「バシーン!」
『少年』の眼の前で、扉が閉められ、初めて、『少年』は事態を認識した。
(参照:見てはいけないもの(その7)[M-Files No.1 ]の続き)
1966年10月2日(日)、広島市立皆実小学校の運動会の日、昼休み、『少年』は、西に2つある校舎と校舎との間の皆実小学校の『便所棟』に駆け込んだ。
弁当を食べ過ぎたのだ。自分の分を平らげると、母親が、
「あんた、これ、食べんさい」
と自分のおむすびを2つ、息子に与え、『少年』は、その追加のおむすび2つも一気に、胃の中に押し込んだ。それがいけなかった。
『少年』は催したのだ。
『少年』は、学校の便所で『大』をしたくはなかった。
学校の便所(汲み取り式だ)の穴の中にあるモノは、色々な奴の物が入っており、自宅の便所以上に臭い、というか、汚穢に塗れている感じがした。
『少年』は、『大』をする時、便所に入る前に下半身丸裸になるが、学校ではそうはいかない。
だから、学校の便所で『大』をしたくはなかったが、その時は、そんなことを云っている場合ではなかった。
『便所棟』に入ると、扉の開いていた個室に飛び込んだ。
そして、白い短パンを脱ぎ、パンツも脱ぎ、手に抱え、しゃがんだ。当時、『大』用の便所は総て和式であった。
しゃがみこむと同時に、モノが出た。
「間に合った…..」
と、ホッとした瞬間であった。その時、
「あ、あーっ!」
引くような叫び声が、しゃがみこんだ『少年』の斜め後ろで、上った。
『少女』が、両眼共に大きく見開き、軀が固ったまま、その場に立ちすくんでいたのであった。
(続く)
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