1995年であった。
大分での仕事を終えたエヴァンジェリスト氏は、大分駅から宮崎に行く特急『にちりん』に乗った。
大分駅でオシッコをしたかったが、時間がなかったこともあり、
「オシッコは、特急『にちりん』のトイレですればいい」
エヴァンジェリスト氏は、そう思い、にちりん』の指定席に座った。
「オシッコをしたい」
脳というよりも股間がそう思っていたが、特急に乗って直ぐにトイレに行くことはみっともないと思い、席に座ったまま、しばらく我慢した。
しかし、股間は、
「そろそろヤバい」
と思い始め、大分駅を出て5分して、エヴァンジェリスト氏は席を立ち、トイレに向った。
乗った特急『にちりん』は、485系で、旧型の車両であった。
485系はかなり古い車両であり、座席周りもかなりくたびれた感じであり、トイレも余り綺麗そうではなかったが、『事態』はもう、綺麗とか綺麗でない、とか云っている場合ではなくなっていた。
「急げ!」
股間が命令していた。
エヴァンジェリスト氏は、デッキに出て、トイレの前に立った。
そして、迷わず引き戸の扉を開けた。
「…っ、は….っ…….」
エヴァンジェリスト氏は、その場に立ち竦んだのであった。
(参照:見てはいけないもの(その11 )[M-Files No.1 ]の続き)
エヴァンジェリスト氏は、そのトイレの前にどのくらい立ち竦んでいたであろうか。
それは、何分間でもあったように思えたが、実際には、それはほんの2-3秒のことであった。それ程の衝撃を目のあたりのしたのである。
エヴァンジェリスト氏は、無意識の内に、手を動かした。
「バシーン!」
と、自分が扉を閉めたその音に、エヴァンジェリスト氏は、我に返った。
「見てはいけないものを見てしまった!」
水を浴びた犬が全身を振り、体に付いた水を飛ばすように、エヴァンジェリスト氏は、大きく頭(かぶり)を振った。
それは、頭の中の残像を吹き飛ばそうとしている行為のようでもあった。
...............エヴァンジェリスト氏は、見たのだ。
エヴァンジェリスト氏は、特急『にちりん』のトイレの中にお婆さんを見たのだ。
エヴァンジェリスト氏は、むき出しになったお婆さんのお尻を見たのだ。
特急『にちりん』の和式トイレにしゃがみ込み、お尻を出して用を足しているお婆さんを見てしまったのだ。
用は、『大』であったのか、『小』であったのかは、分らなかった。
そこに、むき出しになった人のお尻を見て、驚いたその瞬間に、お尻の主が振り向き、エヴァンジェリスト氏を見た。
目が合った。それで、お尻の主がお婆さんであることが分った。
お婆さんは、驚愕と怒りとが混ざったような視線を送ってきていた。
「いやいや、違う、違いますう!」
声にならない叫びをあげると同時に、エヴァンジェリスト氏は、トレイの扉を閉めた。
「バシーン!」
(続く)
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