帰国子女子ちゃんを夏休みの間、翠町町内でもどこでも見かけることはなかった。幸運にも、無様な姿(ソフトボールの練習での酷い守備ぶり)を見られずに済んだ、というべきかもしれないが。
かくして、1965年、『広島市立皆実小学校』5年4組のエヴァンジェリスト君の夏休みは、何事もなく終った…….
一方、宇部市の『琴芝小学校』5年生であったビエール・トンミー君はまだ『恋』も知らなかったが、夏休みの間に、股間に、それまで経験したことのない感覚、何か『違和感』を感じるようになっていた。
しかし、ビエール・トンミー君もエヴァンジェリスト君同様、その夏はまだ、『くしゃれ緑』とも『ウンギリギッキ』とも無縁であり、股間に『違和感』は生じてきたものの、ビエール・トンミー君の夏休みも、表向きには何事もなく終ったのであった。
二学期が始まり、エヴァンジェリスト君にはまた、
「目が合った!」
「他の男の子と楽しそうに話していた」
という生活が始まった。胸には少々辛いものを感じてはいたが、幸せな毎日であった。学校に行けば、『帰国子女』子ちゃんと会えるのだ。
しかし、エヴァンジェリスト君と『帰国子女』子ちゃんとの間には、何の進展もなかった。
まだ5年生なのだから、進展なんてないのが普通だ(ビエール・トンミー君も『鶏』との間に何の進展もなかったようだ)。
それに、進展のない状態というものが、恋の醍醐味であるともいえるのだ。
だが、12月となったある日、その均衡は破られたのだ。
その日、昼休み、給食を食べ終え、エヴァンジェリスト君は、いつものように級友と話していた。
『オバQ』のことを話していたように、エヴァンジェリスト氏は記憶している。
『オバQ』、つまり、『オバケのQ太郎』のテレビ・アニメの放映が、その年(1965年)の夏に始っていたのだ。
『オバQ』ついて話しながら、エヴァンジェリスト君の目は、チッ、チッと『帰国子女』子ちゃんの方にいっていた。『帰国子女』子ちゃんも級友の女の子たちと話していた。
と、『帰国子女』子ちゃんがエヴァンジェリスト君の方に振り向いた。
「まずい!」
エヴァンジェリスト君は、級友の方に顔を向けた。
しかし、視野の中に『帰国子女』子ちゃんが近づいて来るのが入っていた。
(続く)
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