『広島市立皆実小学校』5年4組のエヴァンジェリスト君が、同級生の『帰国子女』子ちゃんからクリスマス・パーティーに招待された。
1965年の12月のことであった。
クリスマス・パーティーがどういうものであるのか、よくは分らなかったが、ときめいた。大いにときめいた。
何か楽しいことをするものなのだろうと思った。しかも、その楽しいことを『帰国子女』子ちゃんが自宅でするのに、自分を誘ってくれたのだ。
エヴァンジェリスト君は、クリスマス・パーティー当日、ハハ・エヴァンジェリストが用意してくれたプレゼントを持ち、『帰国子女』子ちゃんの家に向かった。
ハハ・エヴァンジェリストに、少しおしゃれな服を着せられていた。
エヴァンジェリスト君は、男三人兄弟であった。母親(ハハ・エヴァンジェリスト)は、超社交家で男勝りであった。エヴァンジェリスト家は、完全な『男系』の家庭であった。
女の子の世界は、未知な空間であり、神秘な時間の流れるものであつた。
1965年の12月、エヴァンジェリスト君は、いざ、その未知な空間、神秘な時間へと足を踏み入れた。
クリスマス・パーティーに誘ってくれた『帰国子女』子ちゃんの家の前で、大きく肩で深呼吸をし、左手にプレゼントの箱を抱え、右手で限界のチャィムを鳴らした。
ドアが開き、目の前に花が開いた。
花は、花と見えたのは、『帰国子女』子ちゃんのお母さんであった。
一瞬、狼狽えた。花、と見えたからだ。
今から考えると、クリスマス・パーティーだから、『帰国子女』子ちゃんのお母さんは、より一段、着飾っていらしたのであろうが、花と見える程の、まさに華やかさ、美しさのマダムであった(当時は、マダムという言葉が頭に浮かびはしなかったが)。
ビエール・トンミー氏とは異なり、エヴァンジェリスト君は幼い頃から今に到るまで『変態』ではないので、『帰国子女』子ちゃんのお母さんにまで恋することはなかったが、少しおませな男の子なら、お母さんの方をむしろ好きになってもおかしくはなかった。
『帰国子女』子ちゃんのクリスマス・パーティーに誘われたのが、ビエール・トンミー君なら、股間にいつも以上の『異変』が生じていたであろう。
それ程の華のあるお母さんであった。
それまでにも、参観日にお見かけしたことはあったのであろうが、教室では『帰国子女』子ちゃん本人にしか関心が向っていなかったのだ。
『帰国子女』子ちゃんの家の玄関のドアを開けたその時、初めて『帰国子女』子ちゃんのお母さんという存在を認識し、意識したのであった。
エヴァンジェリスト君は、『帰国子女』子ちゃんのお母さんの美しさに飲まれ、名を名乗ることも忘れ、玄関先に立ったままでいた。
「エヴァンジェリスト君ね?」
という『帰国子女』子ちゃんのお母さんの声に我を取り戻した。
「あ、は、は、はい」
「いらっしゃい!どうぞ上って」
「あ、は、はい」
と云って、靴(ズックだ)を脱ぎ、ついに、『帰国子女』子ちゃんの家に上った。
「もう3人おみえよ」
?
エヴァンジェリスト君の足は、一瞬、止った。
???......3人?
(続く)
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