「そこまでしたからには、『責任』を取らないといけない」
同級生の『帰国子女』子ちゃん宅で開かれたクリスマスパーティーから帰宅したエヴァンジェリスト君は、自宅の子ども部屋でベッドの布団に身をくるめ、呟いた。
1965年の12月、エヴァンジェリスト君が、『広島市立皆実小学校』の5年生であった時のことである。
布団の中のエヴァンジェリスト君は、まだ酔っていた。
勿論、クリスマス・パーティーでアルコールを飲んだのではない。『帰国子女』子ちゃんの放った香りに酔ったのだ。
「そこまでしたからには、『責任』を取らないといけない」
酔いが覚めぬエヴァンジェリスト君は、そう呟いた。
「ボクは、『帰国子女』子ちゃんの家に上ったのだ。『帰国子女』子ちゃんの部屋にまで入ったのだ。だから、『責任』を取らないといけないのだ」
と思い込んだのである。
『帰国子女』子ちゃんと自分とには『関係』ができてしまった、という理解である。
しかし、エヴァンジェリスト君は、クリスマス・パーティーに招待されただけなのだ。
しかも、招待されたのが自分だけではなかったことも忘れたのか、都合良く、他の子たちを記憶から消したのか、勝手な妄想の世界に揺蕩っていた。
エヴァンジェリスト君にとっての『責任』は、『結婚』であった。
しかし、その『結婚』は、仕事から家に帰ると、花のカチューシャをつけた帰国子女子ちゃんが、
「お帰りなさい」
と迎えてくれる、というだけのものであった。
『くしゃれ緑』も『ウンギリギッキ』もまだ知らない頃のことなのだ。エヴァンジェリスト君にとっての『責任』は、それだけのものであっても仕方はなかった。
それでも、その『責任』は、エヴァンジェリスト君にとって、十分甘いものであった。
こうして、『帰国子女』子ちゃんが放った『花』の匂いに酔ったまま、エヴァンジェリスト君は、冬休みに入り、年の瀬を超え、新年を迎えた。
三学期に入っても、エヴァンジェリスト君は酔ったままであった。
授業中も、教室の後方の席から、『帰国子女』子ちゃんを凝視めながら、夢想した。
いずれ結婚したら、結婚前の『皆実小学校』時代の頃を二人で思い出し、当時の担任の先生のことや、同級生たちのことを語るのだ。
「あの子って、歌が凄く上手かったよね。音楽大学にでも入ったのかな?今は、声楽家になってるのかな?」
等と語り合うのだ。
『帰国子女』子ちゃんがすぐ側にいなくても、『帰国子女』子ちゃんの香りを感じることができるようになっていた。
その幸せな錯覚に、股間に微かな『異変』は生じていたが、妄想の中の『結婚』では手を握ることもしなかった。
エヴァンジェリスト君の酔いは三学期の終りまで途切れるこもなく続いたが、修了式の日、担任の先生に言葉が、彼の酔いは覚ましてしまったのであった。
「皆さんに、お知らせがあります.......」
担任の先生は、そう切り出した。
............『宇部市立琴芝小学校』は、何の異変もなく、三学期を終えようとしていた。
ただ、ビエール・トンミー君の股間には、新たな『異変』の萌芽が見られた。
その頃から、何故か、ビエール・トンミー君は、うつ伏せ寝をするようになっていた。
その方が寝つき易かったし、なんだか、ある種の心地良さ、いや、『快』さを『感』じるのだ。
うつ伏せになり、目を閉じると、先ず、鶏小屋がまぶたの裏に浮かんで来た。
ついで、同じ『いきものがかり』の女の子が、いや、鶏小屋の中で餌やりの為にしゃがんだ女の子のスカートの奥の白いパンツが、見えた。
そして、その女の子が、立ち上がると、彼女の下半身は、透けた白いスカーフをまとったような若い女性の下半身に変っていた。
「あ!?これは……」
と思った時、声が掛けられた。
「お兄ちゃん」
同じ部屋に妹もいたのだ。2歳下の妹だ。
「算数、教えて」
ま、ま、マズイ!
透けた白いスカーフをまとったような若い女性の下半身が見えてきた時、股間が少し膨らみ、ムズムズし始めていたのだ。
何がマズイのかは分らなかったが、妹に声を掛けられた時、本能的に、マズイ、と思った。
(続く)
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