『帰国子女』子ちゃんはエヴァンジェリスト君のところまで来ると、
「これ」
と、ピンクの封筒を手渡した。
手渡すと直ぐ、『帰国子女』子ちゃんは先程まで話していた級友たちの輪に戻っていった。
ピンクの封筒は何なのか?その中身は何であろうか?
1965年、『広島市立皆実小学校』5年4組の二学期の教室でのことであった。11月の末の頃であった。
エヴァンジェリスト君は、驚愕と喜悦と羞恥とで呆然としていた。
「なんやあ、それえ?」
先程までテレビ・アニメ『オバQ』について会話していたが級友が、訊いた。
「なんなん?」
級友は重ねて訊いてきた。
「知らん」
そうだ、本当に『知らん』のんじゃ。知りたいのは、こっちの方じゃ。
いつもは、自分の方から、下校の後をつけたり、見ぬふりをしながら姿をチラ見するだけの『帰国子女』子ちゃんの方から、こちらに『行動』をとってきたのだ。それも、思いもせぬ『行動』であった。
しかし、
「何じゃろう?ピンクの封筒の中身は何なんじゃろうか?」
と、直ぐにでも封を開けたかったが、エヴァンジェリスト君は、ピンクの封筒を右手に持ち、その手を体の横に垂らしたまま(ピンクの封筒になんか興味ない、という強がりをして見せたのだ)、再び、『オバQ』について話し始めた。
「何が書いてあるんじゃろ?『好き』いうて書いてあるんじゃろうか?」
『オバQ』について話しながらも、心中は、ピンクの封筒のことしかなかった。
『好き』と書いてあったら、それは『ラブ・レター』だが、そんな言葉をまだ、エヴァンジェリスト君は知らなかった。
『くしゃれ緑』も『ウンギリギッキ』も知らない頃であったのだ。『帰国子女』子ちゃんに『恋』はしていたが、『好き』と言う自覚があるだけで、それが『恋』というものだとも知らなかった。
ましてや、『ラブ・レター』という言葉も知らなかった。
早く帰宅したかった。早く自宅に帰って、ピンクの封筒を開けたかった。開けて、中身を確認したかった。
「『好き』いうて書いてあるんじゃろうか?」
下校途中で開封して中身を確認すればよかったが、友だちが一緒だった。
いや、一人であったとしても、下校途中で開封するという考えには到らなかったであろう。もらった手紙(封筒)を道端で開ける、という感覚はなかった。
『皆実小学校』では毎年、『学級委員』をするお行儀のいい子であったのだ。成績もほぼいつもクラスでトップであった。
ビエール・トンミー君も、宇部市の『琴芝小学校』でいつもクラスでトップの成績を収めていたが、彼の方は徐々に、『くしゃれ緑』と『ウンギリギッキ』の世界に近づいていた。
『鶏小屋』を見ると、いつも股間に『異変』が生じるようになっていた。何故、そうなるのかは知らなかったが。
(続く)
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