1966年3月、修了式の日、エヴァンジェリスト君と『帰国子女』子ちゃんのクラスである『広島市立皆実小学校』の5年4組では、担任の先生が、児童たちに『大変残念な』お知らせを伝えた。
「このクラスは、今日で最後です」
エヴァンジェリスト君の学年の児童数が増えたので、それまでの9クラスでは、1クラスの規定児童数を超えることになってしまい、その結果、1クラス増やすことになり、必然的にクラス替えをすることになったというのであった。
エヴァンジェリスト君は、動揺した。
クラスの他の子たちも動揺し、教室中が騒ついた。
しかし、エヴァンジェリスト君の動揺とクラスの他の子たちの動揺とは、種類が違っていた。
「ボクたちの『結婚』はどうなるのだ?」
「ボクたちの『結婚』はどうなるのだ?」
エヴァンジェリスト君の想いは、恋心の段階を超え、『結婚』の域にあったのだ。
「ボクたちは『結婚』できなくなる」
と思ったのではない。
クラスが変わると、同じ学校、同じ学年とはいえ、それまでの友だちとは交流が殆どなくなるものであった。『広島市立皆実小学校』は、『超マンモス校』であったので、特にそうであった。
普段に接しているかどうかが、その年代(小学生)では大事なのだ。
クラスでの日々の出来事を共有しているかどうかが、重要であるのだ。
しかし、エヴァンジェリスト君の懸念は、『帰国子女』子ちゃんとの普段の交流がなくなること、その結果として、将来の『結婚』がなくなる、というものではなかった。
既に存する『結婚』生活の破綻である。
エヴァンジェリスト君は、『帰国子女』子ちゃんとの『今』の『結婚』生活が消滅することを懸念したのだ。
エヴァンジェリスト君の頭の中では、自分と『帰国子女』子ちゃんとは既に、『結婚』していたのだ。
二人は実は『結婚』しているのだが、そのことを公表はしておらず、ただの級友として学校にいる、同じクラスにいる。
エヴァンジェリスト君の頭の中では、そういう設定になっていたのだ。
後年のテレビ・ドラマ『おくさまは18歳』のような状況が、エヴァンジェリスト君の頭の中では構築されていたのである。
『おくさまは18歳』では、高校の先生と生徒との秘密な結婚であり、衝撃的な設定であったが、法的には、高校の先生と生徒との間で結婚はあり得ないとは云えなかった。
しかし、エヴァンジェリスト君と『帰国子女』子ちゃんとの場合は、小学5年生同士である。法的にはあり得なかったし、夢想でさえ、同級生の女の子と『結婚』していると思い込む小学5年生なんて、世にいるはずはなかった。
だが、エヴァンジェリスト君の想いは、真剣なものであった。
「ボクたちの『結婚』はどうなるのだ?」
と、絶望の淵に追いやられたエヴァンジェリスト君は、同じ教室にいる『妻』の方を見た。
『妻』は、他の女子たちと何か必死に喋っていた。『妻』が、エヴァンジェリスト君の方を見ることはなかった。
「まあ、『妻』も教室では、『アナタ、どうしよう』と云ってくる訳にもいかないからなあ。ボクたちのことは、誰も知らない秘密なんだから」
しかし、『妻』が教室外で『アナタ、どうしよう』と云ってくることもなかった。
エヴァンジェリスト君と『帰国子女』子ちゃんとの『結婚』は、『広島市立皆実小学校』の5年4組の教室の中で『存在』するものであったからだ。
正確には、『広島市立皆実小学校』の5年4組の教室にいるエヴァンジェリスト君の頭の中だけで『存在』するものであったからだ。
「ボクたちの『結婚』はどうなるのだ?」
エヴァンジェリスト君は、5年4組の教室で呆然とし続けていた。
………エヴァンジェリスト君が、『結婚』生活の破綻に衝撃を受けていた頃、宇部市にいたビエール・トンミー君は、ひたすら『うつぶせ寝』にはまっていた。
『うつぶせ寝』とは云っても、眠っていた訳ではない。眠ってしまっては、『ナニ』もできない。
エヴァンジェリスト君が、『結婚』生活を夢想していたように、ビエール・トンミー君も夢想していた。
『鶏』、『白いパンツ』、『透けた白いスカーフをまとったような若い女性の下半身』……..
何故、それらを夢想するのかは自分でも分らなかったが、それらを夢想すると、なんだか、ある種の心地良さ、いや、『快』さを『感』じるのだ、そう、股間に。
しかし、『うつぶせ寝』をする時には、注意をした。妹が同じ部屋にいない時を狙ってスルようにしたのだ。
本能的に思っていたのだ。
「『うつぶせ寝』をしてるところを妹に見られてはマズイ!」
(続く)
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