2018年9月30日日曜日

夜のセイフク[その78]






「もうすっかりスターだね」

と、エヴァンジェリスト君に云われたものの、ビエール・トンミー君は、所謂『スター』にはならなかった。

ビエール・トンミー君は、彼自身に自覚はなかったかもしれなかったが、『スター』になるまでもなく、クラスの女子生徒の多くが、彼に憧れていた。

しかし、女子生徒たちにとっては、ビエール・トンミー君は、『高嶺の花』であった。余りに頭脳明晰で、余りに美しく、ビエール・トンミー君に群がることはなかった。

ビエール・トンミー君は、声も魅力的であった。

だから、放送劇『されど血が』が放送されると(『放送』と云っても、ホームルームでテプを流しただけであったが)、女子生徒たちは、ビエール・トンミー君の声の演技を聴きながら、こっそりとお漏らしをする子までいた。

「(はっ…..、出ちゃった…)」



だが、女子生徒たちは、やはりビエール・トンミー君に群がることはなかった。ただ一人、『されど血が』で相手役の『すず』を演じた隣席の女子生徒だけは、ビエール・トンミー君にことある度に身を摺り寄せるようになってきたし、ビエール・トンミー君の方も彼女に関心はなかったものの、彼の体のある部分だけは、彼女に本能的に関心を持ったようではあった。

「(いや、違う…..)」

しかし、他の女子生徒たちが、ビエール・トンミー君に群がることはなかった。それは、彼が、余りに頭脳明晰で、余りに美しかっただけではなく、『されど血が』というドラマのせいでもあった。

『されど血が』を聴いた同級生たちは、このドラマをどう捉えていいのか、分らなかったのである。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後、放送劇『されど血が』の本番放送直後のことであった

1年7ホームの教室は静まり返っていた。

クラスの生徒たちは、今聞かされたものをどう理解していいのか、分らなかった。

『されど血が』が、『己を見る人間』、『己を、己の罪を見ないではいられない人間』であることのエヴァンジェリスト君の苦悶の叫びであることを理解したのは、ビエール・トンミー君だけであったのだ。

「(エヴァ君、君は…..)」

他の生徒たちは、『されど血が』に、理解はできないものの、何か重いものを感じはしたが、その重みと、その作者であり監督であるエヴァンジェリスト君の軽さとの間に得も云えぬ違和感を覚えたのだ。


(続く)


2018年9月29日土曜日

夜のセイフク[その77]





「これが放送されたら、君はもうスターさ。だから、スターらしいサインくらい考えておかないとね」

というエヴァンジェリスト君の言葉に反して、放送劇『されど血が』が放送された後(『放送』と云っても、ホームルームでテプを流しただけであったが)、ビエール・トンミー君がサインをする機会はなかった。

いや、放送後にはその機会はなかったが、放送前に、本番録音の翌日、

「サインできたあ?」

と、『すず』を演じた女子生徒におねだりをされ、サインをした。

勿論、それは、スターの『サイン』のような『サイン』ではなかった。

ビエール・トンミー君は、秀才で他に類を見ない美少年であったが、芸能界への関心は全くなく、『サイン』ってどのようなものであるのか、想像だにできなかったのだ。

「なんねえ、これえ?.......じゃけど、ええわ」

『サイン』らしくないビエール・トンミー君の楷書の『サイン』を見て、『すず』を演じた女子生徒は、少しがっかりしたようではあった。

「これでええけえ、握手してえ!」

『すず』を演じた女子生徒の勢いに押されて、ビエール・トンミー君は、右手を差し出した。

「うん、ふふ」

『すず』を演じた女子生徒は、ビエール・トンミー君の右手を両手で握りしめた。




「うっ……」

ビエール・トンミー君は、『すず』を演じた女子生徒にも、教室にいる他の周りの同級生にも聞こえないような呻き声をあげた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後、放送劇『されど血が』の本番録音の翌日のことであった。

その前日に生じた体のある部分の異変が、ビエール・トンミー君に生じていたのだ。

「もうすっかりスターだね」

エヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君の股間に目を落としながら、話し掛けて来た。

「いや…..あ!.....いや….」

ビエール・トンミー君は、股間を抑えた。


(続く)



2018年9月28日金曜日

夜のセイフク[その76]








「え!?」

それまで無言で虚空を凝視めていたエヴァンジェリスト君が向けてきた視線に、ビエール・トンミー君が未来を感じたのは、彼の思い過ごしではなかった。

「(エヴァ君、君って….)」

ビエール・トンミー君は、自らも知らぬ内に、友人の未来を予言していたのだ。



「(エヴァ君、君は、己を見る人間なのだ。己を、己の罪を見ないではいられない人間なのだ!)」

それから、7年後、そして、10年後、エヴァンジェリスト君は、フランスのカトリック小説家『François MAURUAC』(フランソワ・モーリアック)を題材に、『己を見る』をテーマとした大学の卒業論文、修士論文を書くことになるのだ。

しかし………

「ビエ君、君、サインを考えておいた方がいいよ。ふふ」

振り向いたエヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君にかけた言葉は、思いもしないものであった。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後、放送劇『されど血が』の本番録音終了後のことであった。

「?」
「だって、これが放送されたら、君はもうスターさ」
「え?」
「だから、スターらしいサインくらい考えておかないとね」

と云って、エヴァンジェリスト君が見せた笑顔には、ビエール・トンミー君が、『されど血が』を通して感じた友人の心の闇を全く感じさせない、いつものお調子者の笑顔であった。

「…..あ…..ああ…….サインね…..」
「わああ!ビエ君のサイン、欲しい!一番最初にアタシにくれんさいね!アタシがビエ君の一番のファンじゃけえね」

より身を寄せてきた『すず』を演じた女子生徒が漂わせる匂いに、ビエール・トンミー君は、体のある部分をより固くした。


(続く)




2018年9月27日木曜日

夜のセイフク[その75]





「(徴兵拒否できないと分っている『ビエール君』は、だから口実を探した。『陛下の為に行く』とか『国の為に行く』とか。しかし、自身の内心の声でもある恋人『すず』の素直な疑問に口実は粉砕される)」

ビエール・トンミー君は、今、本番録音を終えたばかりの放送劇『されど血が』で自らが演じた主人公『ビエール君』を回想した。

「(結局、『ビエール君』は、『されど血が』という言葉を残して、戦地に行くが、その言葉も口実であったのだ。自分の『血』が、日本人である『血』が自らを戦地に赴かせるのだ、という口実であったのだ。だから….)」

いい匂いがまだあった。『すず』を演じた女子生徒はまだ、ビエール・トンミー君に身を寄せたままであったのだ。

「(だから…..『ビエール君』は、いや、エヴァ君、君は、恋人『すず』の『負けんさんな!』と云う言葉が心に刺さったまま、戦地に向かうことになるのだ。そこで、『されど血が』は終る)」

『すず』を演じた女子生徒は、身を寄せたままビエール・トンミー君の顔を愛おしそうに見上げていた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後、放送劇『されど血が』の本番録音終了後のことであった。

「(そうなのだ、妥協して戦地に向かうことになった『ビエール君』は、自分に負けた。しかし、『ビエール君』は、いや、エヴァ君、君は、そのことを知っていた、知っている。エヴァ君、君は、己を見る人間なのだ。己を、己の罪を見ないではいられない人間なのだ!)」



その時、それまで無言で虚空を凝視めていたエヴァンジェリスト君が、ビエール・トンミー君の方に顔を向けた。

「え!?」

エヴァンジェリスト君の視線は、何故か、まるで未来からのものように思えたのだ。


(続く)


2018年9月26日水曜日

夜のセイフク[その74]





「………」

『そう、負けたのだ……』と云ったきり、口を噤んだエヴァンジェリスト君は、今は、教室の天井辺りを凝視め、両の口の端を横にぐいと引いたままでいた。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後、放送劇『されど血が』の本番録音終了後のことであった。

「(そうか、エヴァ君。そうだったのか。君が、『そう、負けたのだ……』と云ったのは、日本が戦争に負けたことを云っているのではなかったのだ。君だ!そう、君が『負けた』のだ!)」

普段は、同級生のミージュ・クージ君の背後からミージュ・クージ君のの片脇に首を入れ、ミージュ・クージ君をお尻から抱え、そのまま頭上まで上げ、

「いくぞー!アトミック・ドロップ!」



と、プロレスごっこに興じている同じ男とは見えないエヴァンジェリスト君の横顔を見ながら、ビエール・トンミー君は、思った。

「(『されど血が』の主人公『ビエール君』は結局、『されど血が』という言葉を残して、戦地に行く。そう、『ビエール君』は徴兵を拒否できなかったのだ。いや、そんなことは最初から分っていたのだ。そういう時代なのだ。『ビエール君』もそのことは分っていたのだ。どれだけ反戦の気持ちを持っていようと、徴兵拒否なんてすると、世間からは『非国民!』と非難され、投獄され、猛烈な拷問を受けることになるのだ)」

無言のままでいるエヴァンジェリスト君の目尻が少し光っているようにも見えた。


(続く)



2018年9月25日火曜日

【緊急特報?】ISGP構想?貴乃花は、猪木さんとタッグを組むのか?




「うーむ、そういうことか」

エヴァンジェリスト氏が、いつものように思わせぶりな言葉を発した。

「今度はなんなんだい?チッ」

ビエール・トンミー氏が、苛立ちながらも、友人の言葉に反応してみせた。そうしないと、この面倒臭い男はいつまでもグジグジ云うからだ。

「また、炎上商法か?ブログ『閉鎖』騒動の次は、何で世間を騒がせるつもりかね?」
「ワシゃ、『ザ・シーク』ではないぞ。火は吹かん」
「なんだ、『ザ・シーク』って。プロレスラーか?」
「おお、『ザ・シーク』を知っていたか!」
「知らんが、火を吹く男って、プロレスラーか大道芸人くらいだろうよ」
「ワシゃ、プロレスラーでも大道芸人でもない」
「まあなんでもいいから、何が『そういうことか』なんだ?」
「『ISGP』構想だな」
「はあああ?『アイエスジーピー』?なんだそりゃ?」
「猪木さんに、評議会議長になってもらうつもりではないのかな」
「猪木さん?『評議会議長』?」
「新間寿には、事務局長をやってもらうのかもしれんな」
「『シンマヒサシ』?誰だ、そりゃ?」
「猪木さんの参謀だ」
「サンボウでも、ヨンボウでもいいけど、要するに何が『そういうことか』なんだ?」
「『ISGP』、つまり、『International SUMO Grand Prix』だ!」
「相撲?...ああ、貴乃花が相撲協会に引退届を出したことに引っ掛けてるのかあ。ああ、そう云えば、君は、息子を相撲取りにして、引退後は部屋持ち親方として安泰な暮らしをさせ、その息子の面倒になろうという魂胆であったな」
「貴乃花は、猪木さんに頼ってもいいだろう。猪木さんも、日本プロレスを改革しようとして追放されたのだ。そして、『新日本プロレス』を立ち上げ、ついには、『IWGP』、つまり『International Wrestling Grand Prix』構想を立て、実行に移したのだ。貴乃花も、猪木さんの協力を得て、『新日本相撲協会』を設立し、『ISGP』を実現すればいいのだ」
「相変らずクダランな。『IWGP』でなく『ISGP』か」
「ストロングスタイルの相撲を目指すのだ!」

「なんだ、『ストロングスタイル』って?ま、何でもいいけど」
「星の売り買いをして全勝優勝するよりも、ガチで10勝する方がずっと価値があるということだ。それに、何しろ、『International』だから、ワールドワイドな相撲団体となり、ワールド・ツアーもするから、今の相撲協会の規模なんか比ではないであろう。日本国籍がないと年寄りになれん、なんぞということもないのだ」
「何のことか分からんが、ボクは相撲は嫌いだ。正確に云うと、NHKの大相撲中継が嫌いだ!」
「何をいきなり怒り出すのだ?」
「『カーネーション』だ!」
「ああ、朝ドラの再放送のことか。大相撲中継の間、『カーネーション』の放送がなかったからな」
「まっことケシカラン!」
「まあ、日本プロレスも猪木追放後、程なく潰れた。歴史が勝者を決めるであろう」
「まあ、『カーネーション』と(2018年の)10月1日から始まる朝ドラ『まんぷく』の放送の邪魔をしなければどうでもいい」
「何のことかよく分らんがまあいいだろう」
「お互いに何のことかよく分らんがまあいいだろう」

訳の分らぬ老人たちである。


(おしまい)





2018年9月24日月曜日

夜のセイフク[その73]





「(『ビエール君』は、自分自身を欺くことはできないのだ)」

放送劇『されど血が』の作者であり、秀才であるエヴァンジェリスト君を上回る秀才のビエール・トンミー君は、主人公『ビエール君』を演じながら、作者エヴァンジェリスト君の意図を理解した。

「(そうであったのか!『ビエール君』は、エヴァ君、君自身なんだね。主人公を『ビエール君』という名前にして、いかにもそれがボクであるかのように見せて、実は、『ビエール君』は、君の分身であったのだ)」



しかし、小説や脚本の主人公が、作者の分身であることは、よくあること、と云うか、当たり前といえば当たり前のことであった。

「(だが、いや、だからこそ、エヴァ君、君の分身を誰でもいいから演じさせる訳にはいかなかったのだ!『ビエール君』を演じることができるのは、エヴァ君の意図と思いとを受け止められる理解力と感性の持ち主である必要があったのだね!...つまり、ボクでなければいけなったんだね!)」

主人公『ビエール君』を演じながら、作者エヴァンジェリスト君の意図を理解したビエール・トンミー君は、エヴァンジェリスト君の期待に見事に応えた。熱演であった。

『ビエール君』は、『ビエール君』であり、ビエール・トンミー君であり、そして、エヴァンジェリスト君となった。

「生きて帰ってきてね」

録音を終えた後も、『すず』を演じた女子生徒が、まだ『すず』になったまま、そうビエール・トンミー君に寄り添ってきたのも、『ビエール君』がビエール・トンミー君にもエヴァンジェリスト君にも同化する程の演技をビエール・トンミー君がしたからなのであっただろう。

「そうか!」

ビエール・トンミー君が、声を発した。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後、放送劇『されど血が』の本番録音終了後のことであった。

「どしたん?」

『すず』を演じた女子生徒が、訊いた。


(続く)


2018年9月23日日曜日

夜のセイフク[その72]






「そう、負けたのだ……」

普段の声音とは声の主は、エヴァンジェリスト君であった。

「(エヴァ君……)」

ビエール・トンミー君は、我に返った。

「…….」

普段は饒舌なエヴァンジェリスト君が、『そう、負けたのだ……』と云ったきり、口を噤んだ。

「(エヴァ君、君は、一体、誰が、何が『負けた』と云うのだ)」

ビエール・トンミー君は、教室内で虚空を凝視める友人の美しくも憂いに満ちた横顔を見遣った。



1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後であった。

「(日本が『負けた』ことを云っているのか?)」

友人の唇が微かに動いた。

「されど血が…..か」

小声ではあったが、ビエール・トンミー君には、友人のその言葉がはっきりと聞こえた。

「(そうか!.....そういうことなのか!)」

エヴァンジェリスト君は、今、本番録音を終えたばかりの放送劇のタイトルを口にしたのだ。

「(そうだ、ボクは、いや、『ビエール』は、『されど血が….』と云ったのだ)」

放送劇『されど血が』の中で、主人公である『ビエール君』は、赤紙を受け取り、悩む。彼は、反戦思想の持ち主であった。

しかし、徴兵を拒否できるような時代ではなかった。そこで、『ビエール君』は、自身を納得させようとする。

「陛下の為に行く」

と。しかし、その口実は、恋人『すず』の素直な疑問に、簡単に打ち壊される。

「何ねえ!ヘイカって何ねえ!ヘイカって何が偉いん!?」

そこで、『ビエール君』は、新たな口実を口にする。

「国だ。そう、国の為だ」

だが、その口実も、恋人『すず』の素直な疑問の前には、何の意味も持たなかった。

「もう!あんたって云う人は!国って何なん!?」
「え?.....国は…….国とは…….」

ビエール・トンミー君は、主人公『ビエール君』を演じながら知った。恋人『すず』は、彼の内心の声でもあったのだ。


(続く)


夜のセイフク[その71]





「♫🎶♩♫」

『されど血が』という脚本、のようなものをベースとする放送劇の本番録音は、エヴァンジェリスト君の作曲・演奏によるフルート主題曲で終った。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後であった。

「フーッ」

ビエール・トンミー君は、大きく息を吐いた。

「ふううう……」

ビエール・トンミー君が演じた『ビエール君』の相手役『すず』を演じた女子生徒も、大きく、長く息を吐いた。最近、ビエール・トンミー君に秋波を送ってくるようになっていた普段は隣席の女子生徒である。

「(うっ…..マズイ)」

『すず』を演じた女子生徒のことを愛おしく感じたのだ。

「生きて帰ってきてね」

『すず』を演じた女子生徒は、まだ『すず』になったまま、そうビエール・トンミー君に寄り添ってきた。

「(うっ…..マズイ、マズイ!)」

ビエール・トンミー君は、自身の体の一部に異変を感じたのだ。

「負けんさんな!」



身を寄せてきた『すず』を演じた女子生徒からは、なんだかいい匂いがした。香水の匂いではなかった(当時の女子高校生は、学校に香水をつけてくることはなかった)。シャンプーの香りであったのか、或いは、若い女性の体臭であったのか……..

「(いや、負けそうだ……)」

それまで『すず』を演じた女子生徒に関心はまったくなかった。俳優が、映画・ドラマで共演した相手役に恋愛感情を持つ、というのはこういうことなのであったであろう。

その時…….

「そう、負けたのだ……」

普段の声音とは違うカレの声に、ビエール・トンミー君は、我に返った。


(続く)



2018年9月21日金曜日

夜のセイフク[その70]





エヴァンジェリスト君は、『何会』という組織を主宰した。その後継組織として『東大に入る会』も立ち上げた。

そして、『何会』とか『東大』という名の冊子のようなものを刊行し、そこで、小説のようなもの、詩のようなもの、脚本のようなものを発表した。

更に、その脚本のようなものをベースとした放送劇のようなものをプロデュースし、自ら監督となり、そして今、その主題曲も演奏したのだ。

1970年の広島県立広島皆実高校1年7ホームの教室である(クラスのことを皆実高校では『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。放課後であった。

『されど血が』という脚本、のようなものをベースとする放送劇の本番の録音を行っていた。

「♫🎶♩♫」

エヴァンジェリスト君が、主題曲をフルートで演奏していた。

「(要するに、エヴァ君は目立ちたがり屋なのだ)」



ビエール・トンミー君は、自分の他のもう一人の秀才美少年を蔑んでそう思ったのではなかった。

「(ボクの方が、もっと秀才でもっと美少年だが、ボクにはできない)」

正直なところ、ビエール・トンミー君には、友人であるエヴァンジェリスト君が創ったものが、いいものであるのかどうか、分らなかった。

組織にせよ、冊子のようなものにせよ、著作物にせよ、音楽にせよ、エヴァンジェリスト君が創ったものの良さを理解することはできなかった。

「(実は、詰まらないものなのかもしれない。多分、実際、つまらないのだ。しかし、エヴァ君は、創るのだ。素晴らしいもの、面白いものであれ、詰まらないもの、くだらないの極みなものであれ、彼は創る。恥じることなく、躊躇することなく、彼は創る。だが、ボクには創れないのだ。まあ、創りたいとも思わないが)」

エヴァンジェリスト君のフルート演奏が終った。


(続く)


2018年9月20日木曜日

【あれれ?】ヘイサ、爺さん!?



「♬ヘイサ、爺さん!ヘイサ、爺さん!♬」

今度は、『ハイサイおじさん』のような唄が近づいて来た。

「またですか。分ってますよ」
「♬ヘイサ、爺さん!ヘイサ、爺さん!♬」
「分ってますってたらあ!」
「いや、分っておらへんな」
「は?今日は、関西弁ですか?ええ、分ってますったら!閉鎖でしょ?このブログ『プロの旅人』を閉鎖しろ、と云うのでしょ!」
「いや、分っておらへん。誰が、閉鎖しろ云うてんねん!?」
「何云うてはります?あんさん、でっしゃろ?エヴァさん」
「誰が、エヴァさんやねん?」
「ええ?エヴァンジェリストさんでは?」
「ワテの顔、よう見いや。おまはん、ホンマ、爺さんやな。老眼酷過ぎんな」
「ええ….?...あ!ビ、ビ、ビエさん!」
「せや、ワテや」
「ビエールはん、も、も、申し訳ありまへん」
「なんで、おまはんまで関西弁になんねん?」
「エヴァンジェリスト氏だけやのうて、あんさんまでもお下劣な人間として書いてしまいましてんねん」
「何抜かしてんや!お下劣な人間として書いただけやないやないか!ワテに女装さすなっちゅうんや!気持ち悪うてかなわん!」
「せやさかい、閉鎖でっしゃろ?」
「まあな。お下劣だけやのうて、ええ加減もたいがいにせえ、ちゅうブログやな。何が、エヴァちゃんが『石原プロ入り』やねん」
「いや、『石原プロ入り』とは云うてまへん。そないな噂があるちゅうだけですねん」
「そりゃ、おまはんが立てた噂やろ」
「それは、特派員の報告ですねん….」
「何が特派員や。都合の悪いことは、みんな、居もしいへん特派員こさえてな」
「いや、特派員は、多分、ホンマに……」
「なんにしても、おまはんのブログは、内容スッカスカやし、話が全然進まへんし」
「もう分ってますねん。閉鎖しますわ」
「ふん!」
「な、なんでっか?」
「どうせ、閉鎖する気なんてないんやろが!」
「いや…」
「ホンマ,往生際が悪いわ」
「いや、閉鎖しまんねん。それに、ビエールはんは、なんやら最近、『すず』鳴らしながら、『カーネーション』鑑賞ばかりしてはって、『プロの旅人』なんか、興味あらへん、って特派員から報告受けてますで
「ホンマ、懲りんやっちゃな。それに、特派員も、ええ加減なこと云うて」
「いや、閉鎖しますわ」
「なんやかんやいうて、結局、『閉鎖』騒動で、ブログ3回分稼いでんやないか!おまはんの魂胆なんか、『底が丸見えの底なし沼』や。エヴァちゃんも云うてたみたいやけど、炎上商法やな」
「てへ!」
「ええ加減にせえよ!どうでもええから、『夜のセイフク』再開せえや!」
「またお下劣路線に入りまっせ。ワイは、最低の人間やさかい」
「お下劣止めえ、云うたかて止めへんくせに。もう、メンド臭いわあ」
「あ、スンマヘン。臭うおまっか?屁しましてんねん」
「屁え!」



(おしまい)





2018年9月19日水曜日

【マジ】ヘイヘイヘイ、ヘイヘイサー!?




「♬ヘイヘイヘイ、ヘイヘイサー!♬」

エヴァンジェリスト氏が、『学園天国』のような唄を歌いながら来た。

「またですか。分ってますよ」
「♬ヘイヘイヘイ、ヘイヘイサー!♬」

「分ってますってたらあ!」
「いや、分っておらんな」
「閉鎖でしょ?このブログ『プロの旅人』を閉鎖しろ、と云うのでしょ!」
「いや、分っておらん。まだ閉鎖しておらんではないか!」
「だからあ、読者の声を聞こうと…..」
「本当に分からん奴だなあ。即刻、閉鎖、と云ったはずだ」
「読者は、まだ誰もコメントを….」
「いくら待っていても、誰もコメントなんて書いてはくれまい。本当に閉鎖するなんて思っていないのだ。どうせ、また、『閉鎖』をネタにしてアクセス数を稼ごうとしている、としか思わないのだ。一種の炎上商法だとしか思わんのだ
「それは、必ずしも……..」
「ばっかもーん!ワシは、伊達や酔狂で『閉鎖しろ!』と云っているのではない!」
「え!?...では、本当に?」
「こんなお下劣なブログは、即刻、閉鎖するんだ!」
「うううーっ…….」

皆さん、どうやらエヴァンジェリスト氏は『マジ』らしい。…..このブログ『プロの旅人』は、エヴァンジェリスト氏の行状記なのだから、彼に『やめろ!』と云われたら、止めるしかない…….のであろうか?

読者の皆さん、どうすればいいか?コメントを書き込んで欲しい。本当に、お願いだあ!


(おしまい)