(住込み浪人[その71]の続き)
「いいかい、君は、確かにこれまでテレビに出たことはないかもしれない。でもさ、今度、『テイトー王』に出たら、ほら、もうテレビに出たことになるじゃないか」
OK牧場大学の校庭で、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年にマイクをくっつけたまま、EBSテレビのディレクターは、吠えるように説明をした。
「いや、その理屈は、ちょっと強引では…..」
「ああ、君もまだ若いなあ。まあ、君の頭脳は、相当に優秀なようだが、社会人経験はまだないからなあ」
「そういう問題ではないのでは…..」
「いいかい、トンミー君。教えてあげよう。世の中の会社ではね。誰でもいいから、営業部門に配属させれば、その瞬間からその者はもう、『営業』なんだよ」
「ええ!?商品知識も何もなくても?」
「ああ、そういうもんさ。まあ、少なくとも1ヶ月も経てば、何の教育も受けていなくとも、上司から『もう独り立ちできるだろ?』と云われるのさ」
「そんなバカな!」
「そんなバカなことが横行しているのが、今のこの国の現状なんだよ」
「でも、ボクは違う!ボクは知っている、自分が芸能人ではないことを。『己を見る』ことをしないと、エヴァの奴に叱られる」
「エヴァの奴?....ああ、まあいいさ。とにかく、君は、『テイトー王』の出た瞬間から芸能人さ。何も臆することはない」
「いや、臆する、臆さない、という問題ではなくって….」
「それに、君は、ただ営業部門に配属されたから『営業』になる輩とは、違うのさ」
「はあ?」
(続く)