(住込み浪人[その47]の続き)
「(んぐっ!)」
カレー・ライスを食べ終えたのに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、まだOK牧場大学の学生食堂におり、足の付け根辺りに持っていった両手を更に強く体に押し付けていた。
「(そうだ。あの時、ボクは決めたんだ!)」
広島のMHK文化センターのホールを思い出していた。いや、そこにいた美人講師を思い出していた。
「(ハンカチ大学に入る!)」
広島のMHK文化センターで『ロマン主義と解放』というタイトルで西洋美術史の講演をしたトシコ先生が専任講師を務めるハンカチ大学に入ることを決意したのだ。
「(だが…….ボクは、ボクには…..)」
自身の不甲斐なさを恥じた。『ハンカチ大学に入る!』という決意の強さの裏にある不甲斐なさを知っていた。
「(文学部に行く、とは云えなかった…..)」
云うまでもない。トシコ先生が所属するのは、文学部だ。しかし、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が受験したのは、ハンカチ大学の商学部なのだ。
「(文学部を受験すると云ったら、両親は驚いただろう。そして、『どうして?』と訊いたであろう)」
カレーが付いたままとなっている歯を噛み締めた。
「(トシコ先生がいるから、なんて云えないではないか!美人講師目当てだなんて、云える訳がない!)」
しかし、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、知っていた。自分が嘘をついてはいないものの、心の中で発した言葉が総てではないことを。
(続く)
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