(住込み浪人[その54]の続き)
「フランス文学に興味がないのに、フランス文学の修士課程に入った、だって!?」
OK牧場大学の学生食堂で、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とエヴァンジェリスト青年が会話するその周囲の学生たちは、口から言葉を発しはしなかったが皆、そう思った。
「ウチ(OK牧場大学)の仏文の大学院は、テイトーの学生たちも受験しにくる国内随一の難関なのに、そこに、学部の1年の途中で飛び級で入るなんて!」
「なのに、フランス文学に興味がないって、じゃあ、どうして飛び級までして入ったんだ!?」
という周囲の学生たちの驚愕と疑問に応えるかのように、エヴァンジェリスト青年は、友人『住込み浪人』ビエール・トンミー青年にだけ向けて話すには少々大きな声で説明した。
「ボクは、『フランソワ・オオモーリアック』に関心があるのさ」
「ああ、『サヤエンドー・シューサク』の」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、それまでに『フランソワ・オオモーリアック』の名を今、側にいる友人から聞いたことがあった。
「レンブラント光線のように、闇を描いて光を描くような小説を書いているんだ、『フランソワ・オオモーリアック』は」
『ノーベルアメ文学賞』も受賞したフランスのカトリック作家である。『サヤエンドー・シューサク』は、『フランソワ・オオモーリアック』の影響を受けていたのだ。
「『サヤエンドー・シューサク』…..」
周囲の学生たちは、OK牧場大学の先輩である『サヤエンドー・シューサク』の名は知っていたが、『フランソワ・オオモーリアック』の名や、『サヤエンドー・シューサク』が、『フランソワ・オオモーリアック』の影響を受けていたことは知らない。
「だから君は…」
周囲の学生たちは、『フランソワ・オオモーリアック』の影響を受けた『サヤエンドー・シューサク』の影響を更に、今そこにいるフランス文学専攻の修士課程の学生(エヴァンジェリスト青年)が受けていることも、知らなかった。
「そうさ、もっと『フランソワ・オオモーリアック』を知りたかったのさ」
と云うエヴァンジェリスト青年の説明は、説得力が十分ではなかった。
「だけど、フランス文学に興味がない人間が、国内随一の難関のウチの大学院の仏文に入れるものなのか?」
「そもそも、飛び級なんて制度、あったかなあ?」
周囲の学生たちは、無言のまま、互いの顔を見合い、そんな疑問をぶつけ合った。
(続く)
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