(住込み浪人[その45]の続き)
「臭っ!」
広島のMHK文化センターのホールであった。足の付け根辺りに持っていった両手を更に強く体に押し付けた広島皆実高校の2年生のビエール・トンミー少年の隣に座っていたオバサンが、小声ながら強い口調の言葉を吐いた。
「(ん?)」
ビエール・トンミー少年は、気付いていなかった。
「ああ、臭いねえ!」
その頃のビエール・トンミー少年はまだ、昼夜を問わず何日も着たままのパジャマで外出する、ということはなかった。
「(ん?)」
自身の体のある部分が、ある状況の許で異臭を放っていることに気付いていなかった。
「これじゃけえ、若い子は嫌よねえ」
と、コテコテの広島弁のオバサンの言葉に気を取られていたその時であった。
「……インモー…..」
それは、トシコ先生の赤く濡れた唇の間から漏れた言葉であった。
(続く)
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