(住込み浪人[その53]の続き)
「ええ?アイツ、パジャマ野郎の『スミロー』のくせに、ウチの大学院生と知り合いなのか?」
OK牧場大学の学生食堂である。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の周囲の学生たちの視線は、明らかにそう云っていた。
「いや、知り合い、っていうか、友だちか同級生って口のきき方だぜ」
彼らは、正しかった。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年とOK牧場大学の大学院生らしきエヴァンジェリスト青年は、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の友だちであり、広島皆実高校で1年生の時の同級生であった。
「君はいつから、ここの大学院生になったんだ?だって、君はまだ今年、学部の文学部に入学したばかりで、ああ、そうだ、ここ(四田)の『特別食堂』にいるどころか、まだ目吉にいるはずじゃあないか」
そうだ。エヴァンジェリスト青年は、一浪後のこの年、OK牧場大学の文学部に合格したばかりであったのだ。そして、OK牧場大学の文学部の1年生(教養課程)が学ぶ校舎は、ここ四田ではなく、目吉である。
「ああ、それに、1年生は、まだ専攻さえも決まってないだろ」
OK牧場大学の文学部は、1年生の段階では、まだ専攻が決められておらず、2年進級時に1年での成績と希望とから専攻が決まる。つまり、大学院どころか、専門的な勉強をする段階でさえないのだ。
「君も、その辺の奴らとおんなじか?」
「ええ?」
と、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『その辺の奴ら』こと、自分たち二人に注目している周囲の学生たちを見遣った。学生たちは、視線を外した。
「何故、そんな固定観念に縛られているんだ」
「いや、だって…..」
「ボクは、飛び級したのさ」
「ええ!まだ、1年を終えてもいないのに?」
「だから、それが固定観念だと云うのだ。1年時を終えないと飛び級してはいけないのか?もうそれ以上、学部で勉強する必要がないと思ったら、その時点で飛び級していいではないか。修士課程に入っていいではないか。ボクは今、文学研究科フランス文学専攻の修正課程にいるんだ」
「学部の卒論は書いたのか?」
「そんなものは書かない!ボクは、フランス文学には興味はないんだ」
「えっ!」
「ほっ!」
「おお!」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、驚愕の言葉を発する前に、学生食堂周囲の学生たちが、思わず叫び声を上げた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿