2019年4月24日水曜日

住込み浪人[その66]







「うーむ…..痛っててて」

竹箒を右手に持ち、背伸びするように腰を伸ばし、左手で拳を作ると、背中と腰の境目をあたりをポンポンと叩いた。OK牧場大学の校庭である。

「ああ……」

と溜息をつきながらも、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、再び、竹箒を両手で持つと、校庭を掃き始めた。



「(エヴァの奴めえ….)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、友人のエヴァンジェリスト青年を恨んだ。

「(アトミック・ドロップなんて、広島出身なのに)」

前日、アトミック・ドロップでエヴァンジェリスト青年の膝に自らの臀部をしたたか打ちつけれられ、そのままバウンドして学生食堂の床に仰向けに落下し、意識を失った。その時、受けた体のダメージがまだ残っているのだ。

「ねえねえ…..」

痛みをおして竹箒が校庭を掻く音に紛れて、女性の声が聞こえたような気がした。

「…….じゃなくって?」

しかし、OK牧場大学は共学であり、女子大生も少なくない。その時も、校庭には何人も女子大生がいたので、彼女たちの声が聞こえてきてもなんら不思議ではなかった。

「…テイトー……辞退……」
「(ん?)」

少々気になる言葉聞こえたような気がしたが、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、校庭掃除に勤しんだ。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、ただの『浪人』ではないからだ。あくまで『住込み浪人』なのだ。

「(んん?)」

しかし、箒の動きが止まった。

「(誰だ?)」

誰かに見られている気がしたのだ。

「(見られている?.......まさか、オバチャン?)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、竹箒を動かす手を止め、周囲に目を遣った。


(続く)




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