(住込み浪人[その55]の続き)
「あああ、だから嫌になっちゃうんだ。君たちったら、いつだってそうだ」
OK牧場大学の学生食堂で、友人の『住込み浪人』ビエール・トンミー青年と対峙したエヴァンジェリスト青年は、友人に向って、『君たちったら』と云った。
「(君たち?)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、その言葉に引っ掛かりを覚えた。
「え、ボクたちのことか?」
二人の周囲で、二人の会話を聞いていた学生たちも、エヴァンジェリスト青年が口にした『君たち』という言葉に、戸惑った。
「システムにはねえ、仕組みというものにはねえ」
そんな『住込み浪人』ビエール・トンミー青年や周囲の学生たちの困惑をよそに、エヴァンジェリスト青年は、虚空を凝視めながら、言葉を続けた。
「例外処理が必要なのさ。『その他』フォルダーが必要なのさ」
周囲の学生たちは、自分たちが口を開けたまま、仏文の修士課程の学生を見ていることに気付いていなかった。
「世の中には、イレギュラーなこと、思いもかけないことが起きるものなのさ」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年だけは、いつも戯けたこと、斜に構えたことしか云わない友人が、ごく稀に、ごくごく稀に、オリンピック開催よりも稀に、一見、あくまで一見だが、真正面からモノを云うことがあることを知っていた。そして、多分、今が、その稀な時なのであろう、と気付いた。
「なのに、君たちったら、『想定内』のことでしか世の中の事象を捉えようとしない。固定観念を捨てよ!」
と云うと、エヴァンジェリスト青年は、人差し指を立てた右手をを斜め上に突き出し、そして……
「実際に、君は、ここにいるビエール・トンミー君は!」
と、その手を、人差し指を、今度は、目の前にいる友人の方に向けた。
「(な、な、なんだ!?)
指さされた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、思わず体を後ろに引いた。
(続く)
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