(住込み浪人[その43]の続き)
「(いや、違う!違うんだ!)」
OK牧場大学の学生食堂でカレー・ライスを食べ終えた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、必死で抗弁した。『カメムシ』や『テイトー王』について話していた二人の男子学生が立ち去っていく背中を見遣りながら、誰に追及された訳でもないのに、心の中で、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、叫んでいた。
「(ボ、ボ、ボクがハンカチ大学に入りたいのは、専ら勉学の為だ。いや、『商学』を修める為なんだ!)」
確かに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、ハンカチ大学では『商学部』だけを受験していた。
「(確かに、一般教養で『西洋美術史』も受講することにはなるかとは思うが…..)」
と、心の中とはいえ、『西洋美術史』なる言葉を発してしまった『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、足の付け根辺りに両手を置いた。自分の本心を隠すように。
「(んぐっ!)」
ある女性の像が、脳裏に浮かんできたのだ。
「(いや、違う!違うんだ!)」
ハンカチ大学には、『西洋美術史』を担当する博士号を持つ美人講師がいた。その美人講師は、広島に講演に来たことがあった。
「(ボクは、美術に、西洋美術に興味があるんだ)」
それは嘘ではなかった。広島皆実高校の2年生であったビエール・トンミー少年は、その日、MHK文化センターにいた。
………『ロマン主義と解放』であった。
(続く)
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