(住込み浪人[その102]の続き)
「(なんなの、この臭い!?)」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』の収録中であった。『テイトー王』のクイーンである『テイトー』(帝立大学東京)の学生にして、スタンハンセン大学も認めた才媛である『サトミツ』こと『佐藤ミツ』が、今回の『テイトー王』で不調なのは、『んぐっ!』なる訳の分からぬものがこの世にあることを知ったから、ということだけではなかったようだ。
「(んもー!この臭いのせいで、また早押しできなかったじゃないの!)」
早押しクイズで、答が分り、ボタンを押そうとしたものの、それまで鼻に手を持っていっていた分、遅くなり、早押しできなかったのだ。それが一度ならず、2度三度と続いたのである。
「あれえ?『佐藤ミツ』どうしたかなあ?花粉症か?」
事情を知らない司会者の一人、元お笑い芸人のヒロニが、しきりに鼻に手を持っていく『サトミツ』を見て、そう云った。
「(ふん!花粉症じゃないわ。ヒロニさん、分からないの、この臭い?)」
そうだ、ヒロニやもう一人の司会者であるお笑い芸人のナンカイノー・アメカイノー、そして、他の出演者には、臭っていないようであった。
「(分かるわ、その臭い。私は今、マスクでなんとか防いでいるけど)」
そう、もう一人、アシスタント・ディレクターの松坂慶江だけは、『サトミツ』の苦悶を理解していた。
「(だけど…..ただ臭いだけ?)」
その質問が届いたわけではなかったが、『サトミツ』自身、自らに生じている混乱が、単なる知識の欠如(『んぐっ!』って何か知らないこと)に起因するものではないことに気付き始めていた。
「(ああ、臭いのに…..たまらなく臭いのに!)」
(続く)