(住込み浪人[その89]の続き)
「今日も頑張りましょっ」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』出演者控室のドアが開き、入って来たのは、大きなウエーヴのかかった髪型の老婦人であった。控室にいる者たちに声をかけた。
「(しまった!)」
振り向いて、いい匂いの主が、その老婦人であることを知った『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、いい匂いに『反応』してしまった股間に両手を当てたまま、無言で舌打ちした。
「(『デヴィル夫人』…..)」
芸能関係には疎い『住込み浪人』ビエール・トンミー青年ではあったが、『デヴィル夫人』のことは知っていた。勿論、『テイトー王』に出演しているからでもあったが、『デヴィル夫人』は元々は芸能人ではなかったからである。
「あら、この部屋、今日はなんだか臭いわねえ」
『デヴィル夫人』が、持っていた扇子で鼻を隠した。その所作は気品を感じさせるものであった。そう、『デヴィル夫人』は、その昔、『インドジェネーシ』国の建国の父と呼ばれた同国の『スケルノ』大統領の夫人(第3夫人)であったのだ。日本人であるが、EBSテレビのある青坂にあった高級クラブのホステスであった時に、『スケルノ』大統領に見初められたのだ。
「(んぐっ!)」
『デヴィル夫人』が扇子を鼻に持って行くときに起こした風に乗ってきたいい匂いに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間が再び、『反応』した。
「(いや、違う!)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、必死で否定した。『デヴィル夫人』は、80歳近いおばあちゃんであったが、かつては絶世の美女であり、今も年齢を感じさせぬ美貌であった。つけている香水もそんじょそこらで売られているものではなかったのであろう。
「あーら、何が違うのかしら?そもそも、アータ、だーれ?』
『デヴィル夫人』が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を直視しながら云った。
「夫人、こちら、『住込み浪人』のビエール・トンミー君です」
テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江が、紹介した。
「あーら、あなたなのね、噂の『住込み浪人』って。今日は、ヨロシクね」
と云うと、『デヴィル夫人』が右手を差し出した。
「あ、はい…..」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年も右手を差し出し、『デヴィル夫人』と握手を交わした。その瞬間、
「(んぐっ!んぐっ!)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の股間がまたまた、大きく『反応』した。
「あら!この部屋、今日は本当に臭いわねえ」
「夫人、あちらの控室に参りましょう!」
それ以上、その部屋にいられない、いや、それ以上、その男の側にいたら、卒倒してしまうと思ったアシスタント・ディレクター松坂慶江は、『デヴィル夫人』を抱えるようにして自らと共に、部屋の外に連れ出した。VIP出演者の『デヴィル夫人』の控室は、別に個室があったのだ。
(続く)
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