(住込み浪人[その90]の続き)
「あら、この子、美味しいわねえ」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』出演者控室に設置されたテレビ・モニターを見ながら、中年女性が、舌舐めずりするように云った。
「まあ、『当局』の意向に沿ったつもりなんでしょうけれど、どうかと思いますねえ」
街頭でマイクを差し出された青年が、インタビューに答えていた。青年は、インタビュアーにこう質問されていたのだ。
「最近、『融資部』、『審査部』という名称をなくす銀行が出てきていますが、この流れについてどう思われますか?」
中年女性が見ていたのは、どうやら、『地域金融機関の生きる道は?』というドキュメンタリー番組のようであった。
「『当局』は、企業の事業成長性等を評価して融資を推進するように、なんてことを云っているので、もう、財務分析や格付等の融資審査は不要、と短絡的に考える金融機関もあるようですが、それはまさに短絡的ですねえ」
たまたま街頭でマイクを差し出されただけの青年とは思えぬ発言である。
「(『当局』って何だ?)」
という『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に疑問に答えるように、テロップで『当局=金融財務省』という説明が出た。
「決算書は、見るとその企業の問題点にばかり眼がいくので見ない、という人もいると聞きますが、財務分析は、審査というのは、融資先企業の問題点を見出す為にだけするものとは思いません」
インタビューを受けている青年の顔がアップになり、控室に設置されたテレビ・モニター一杯に、大映しとなった。
「この子、ホント、美味しいわ!」
舌舐めずりするように、ではなく、まさに舌を出して、真っ赤な紅が塗られた自らの唇を舐めた中年女性は、どうやら芸能事務所の関係者、多分、マネージャーのようであった。
「ウチの事務所に欲しいわねえ」
とその中年女性が云うのと同時に、
「ああ!」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年が、思わず声を上げた。
(続く)
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